好きなのは知ってる
白い喉を晒し、抑えきれない喘ぎが艶めかしい。
[黒翼の美しい恋人、御機嫌は如何?]
ベオグにしてみれば、遥か昔。
女神を殺す、大きな戦争があった。
今にしてみれば共存しているベオグとラグズ。互いに歪み合っていたのが遠い記憶の彼方にあるように、鳥翼族の王は感じていた。
「いつまで仕事もせずに、窓から外を眺めているつもりだ?」
苛ついた声が聴こえた。ティバーンは振り向き、いつの間にか執務室に入ってきた---しかも何故かソファでくつろいでいる---黒い翼の外交官を見た。
「相変わらず座り心地がいいソファだな。」
ティバーンの視線を何と捉えたのか、ネサラは嘘くさい笑顔で言った。
「ネサラ、珍しいな。お前から来てくれるなんて。」
ソファの方へゆっくり歩きながらティバーンは言った。勿論、満面の笑みで。
「近寄るな。リュシオンに頼まれて来ただけだ。」
一瞬にして眉間にシワを寄せ、悪態。
「リュシオンがか?何を?」
これ以上近付くと本気で逃げられそうだと察し、ティバーンは止まった。
本当は今すぐ抱き締め、白い肌を触りたくて仕方ないのだが。
「“ティバーンは仕事のしすぎで疲れている。ネサラを見れば元気になるからティバーンのところへ行って来い。”…だとよ。」
実のところ、リュシオンなりのネサラがティバーンへ会いに行く口実を作る気遣いだったのだが、ネサラは全く気付かず、仕事もしない王を見て苛々していた、という訳である。
「そうか…じゃあ」
ティバーンは瞬時にネサラのとなりに座り、ネサラを押し倒す。
ソファに座っていたのが仇となり、呆気無くネサラはティバーンに組み敷かれた。
「元気をお前から貰おう。」
「ふざけんな!!どけ!!万年発情期!!」
「万年発情期か…まぁ、お前が目の前に居れば発情しても仕方ないからな。」
「う、うるせぇ!!いいからどけ!!」
赤面しながら全力で抵抗するネサラに覆い被さり、首筋に唇を落とす。
それだけで力が少し弱まり、掠れた呻き声に近い喘ぎを発する。黒翼が羽音をひとつ、たてた。
「あぁ…堪らねぇ。お前本当に…」
ティバーンは溜め息と共に呟き、元から大きく開かれた胸元を更に広げようと、金具を片手で外す。…というより、壊した。
「あ、」
一瞬ハッとした顔で動作を止めたティバーンに、ネサラが薄く目を開けた。
---文句を言わない…ということは、気付いてない?
後で謝る、と心の中で呟き、再び白い身体に手を這わせた。
「…ぁ、ティバー、ン、」
最初の抵抗は何処へ行ったのか、ネサラはティバーンの身体に腕を回した。
好きだ、という台詞こそ彼から聞いたことが無い。しかし、抱擁するという行為が、ティバーンにはその一言よりも甘い意味を持つように思えた。
「ネサラ…」
名前を呼ぶと少し震え、ティバーンの背中へ回された腕に力が少し入った。
互いに服を脱がし、肌着も脱がす。
毎回の如く恥ずかしがりながら、しかもそれを隠そうとしながらネサラはそれに応える。
ティバーンはどうしようもなく、色気を感じた。
「キス、しようぜ」
ティバーンがそう囁くと、緩く口を開くネサラ。
最初は食むように、段々深く口付ける。それにネサラは舌を差し出し、互いに行為に没頭した。
実は、ネサラの方がキスは上手いのだが、ティバーンに口内を好きにされる快感のために、彼にリードさせていた。勿論、無意識になのだが。
キスをしながら互いの肌に触れる。
前に触れた時には無かった傷を手探りで探し、労るように撫でる。
平和な時代になったとはいえ、戦いが皆無ではないから互いに心配する。ネサラは絶対に日常会話でティバーンを心配することは言わないから、この行為の時は存分にティバーンに触る。それにティバーンは気付いていて、現状より更にネサラに恋をするのだった。
暫くそうしていて、ティバーンが興奮した性器をネサラの内腿に擦りつけ、ネサラが声を漏らした。
「いい、ティバーン。もう。俺も男だから、分かる。だから、」
端的な言葉を息と共に吐き出すネサラに、ティバーンは、あぁ、とだけ囁いて、ネサラの長く、しなやかな脚を自らの肩に掛けて指で解しにかかった。
「…っく、ぁ、」
ティバーンの指は太い。第一関節が入っただけでネサラは呻く。---それすら快感だということを、ティバーンに告げる気は無い。
「ネサラ、すまん」
謝りながら奥へ、指を増やしながら進む。
温かい肉壁が指をきつく締め付け、その度にティバーンはネサラの肌へ口付けた。
「謝るな…っ、馬鹿、」
ネサラは瞳を潤ませながらティバーンの腕を引っ掻いた。
赤い線が刻まれ、ティバーンは少し笑みを浮かべ、ネサラと目を合わせた。絡む視線にネサラも喘ぎながら笑む。
---お前は、どうしてそう、
俺の理性を崩すかな…。
「好きだ」
ティバーンは唐突にネサラの身体を起こし、吐くようにして言葉を呟いた。そして、その拍子に繋がった。
「ぅあ、ーぁっ!あ、ティバーン、ティバーン!」
普段は低い彼の声が掠れ、声を抑えようとティバーンの肩へ緩く噛みついた。
歯形ができる感覚に興奮する。体内でティバーンの性器が膨張したのがネサラには分かった。
「全く…普段からこういう態度なら可愛いのによ…っ」
対面座位の状態で腰を揺する。
互いに身体を寄せ合い、感じて、成す術もなく快感に酔う。
背中にある相手の手が愛しい。
---俺なんかよりデカイ、厚みのある手だ。
---綺麗な、形がいい手だ。
---こんな美しい手が、俺だけのものだなんて、何て、俺は
幸せなんだ。
ティバーンは、達した後、自分に寄り掛かってきたネサラの背中を優しく撫でた。
ネサラはまだ荒い息を直しながら、ティバーンの空いた片方の手を握り、そのまま眠りに落ちていった。
「…ネサラ、ネサラ!」
「…あ…?ティバーン…?」
ティバーンの執務室のソファで毛布を被り眠っていたネサラは、ゆっくり目を開けた。
目の前に居るティバーンは上半身裸で、下半身は脱ぐ前に着ていた服を身に付けていた。
「起きたか。ニアルチが迎えに来てる。」
「…は?ニアルチ…?………あ?!」
勢いよく上半身を起こし、痛む腰に一瞬呻く。
ティバーンが大丈夫かと手を出すのを無視し、被っていた毛布を下半身に巻いて自分の服を探した。
「おいティバーン、俺の服」
髪を整えながら問うネサラに乾いた笑みを見せ、ティバーンは自分の服を差し出した。
「…は?ふざけてる場合じゃないのが分からないのかアンタは?」
「いや…お前の服の金具壊したから代わりに。」
「……」
「悪かったって」
「……」
「ネサラ?」
「……」
「いや、あの。弁償する。許せ。」
ネサラは無言でティバーンの服を受け取り(かなり乱暴に、ということは言うまでもない。)、自分に合わないサイズの袖を折った。脚は彼の方が長いから、裾を折る必要は無かった。
「ニアルチ!」
唐突に叫ぶと、ニアルチがティバーンの許可無しに執務室へ入って来た。
「坊っちゃま、お召し物はどうなされましたかな?」
「そこの性欲馬鹿にきけ。帰るぞ。」
「はぁ…。」
ニアルチはティバーンを一度見て、呆けた顔をし、無言で窓を開けるネサラに視線を戻した。
「ネサラ」
そのまま飛び発とうとしていたネサラは動きを止め、目だけをティバーンにやった。
ティバーンは相変わらずの意味無い自信に満ちた笑みを浮かべ、ネサラに腕の赤い引っ掻き傷を見せた。
「肩には歯形もある!」
「失せろ。」
そのままネサラは飛び発った。
ニアルチも続いて飛び発つ。勿論、ティバーンへ挨拶をしてから。
実はネサラがティバーンの服の匂いに動揺したり、引っ掻き傷と歯形を見て行為を思い出したりして、暫く顔が赤かったのは本人以外は誰も知らないことである。
end.
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