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駄文
気付いた頃には手遅れで - 02


「よぉ、リョウ。邪魔してんぞ。」

リビングの扉を開けてすぐに目が合った男の存在に、涼一はピシリと動きを止め、馬鹿正直に帰ってきてしまったことをすぐさま後悔した。
(くそ、『用事』ってコレか…!)
今日初めて動いたその表情は、苦虫を噛んだ挙句嚥下してしまったような、実に嫌そうなしかめ面であった。
出来るならこのままくるりと背を向けて、何事もなかったかのようにこの場を立ち去りたい。
しかし、後ろから来た母親の、そんなとこで突っ立ってないで早く座りなさいよ、の声にそれは適わなくなってしまった。
渋々席に着きながら、涼一は今日に限って何故玄関の靴に気付かなかった、と一人自分を責めていた。
そんな涼一を覗き込み、この男、神崎隼人は口を開く。

「なんだ、機嫌悪そうだな。どうかしたのか?」
「っ…、見んじゃねぇよ。」

不意に目にしたその上目遣いに、思わず息を詰めて、苛立たしげに低く吐き捨て、手元のグラスを掴む。
それに隼人は、んだよ、思春期ってやつか?と軽く返した後、特に気にした風もなく、それよりも、と口元に笑みを浮かべて話を続けてくる。

「今日はな、報告しに来たんだよ。もうさっき怜司さんと稜子さんには伝えたんだけどな?」
「じゃあ帰れば。」
「まぁまぁ、そう言わずに聞けって。」
「俺が聞く意味わかんねぇし。」

それに、と、どこかいつもより上機嫌な隼人をチラリと見て、小さく息を吐く。
(それに、どうせアンタが機嫌良く報告する事なんざ、大体想像つく。)
こくりと水を一口飲み、視線を横に逸らす。

「あのな、ついに俺、店開くことになったんだよ。」

ほらな。
この男がここまで嬉しげに俺らに報告する事と言ったら、新作の料理の事か、念願である喫茶店の事関連に決まってる。
それか、結婚…とか。
ふと頭に浮かんだ2文字に、何故か急にズキリとした痛みと締め付けるような息苦しさを覚えるが、それを顔には出さず、あ、そ、と返す。

「だからな、今度遊びにでも来いよ。奢ってやっからさ。」

な?と、誘ってくる隼人に、面倒くせぇ、と言いながら視線を向ければ、
にこにこと、いつもは切れ長のその目を和らげ、子供のように無邪気に、それはもう幸せそうな笑みを浮かべている隼人がいた。
(…脳天気な顔。)
あまりの上機嫌っぷりに毒気を抜かれつつ、呆れたようにその顔を眺めていた。



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あきゅろす。
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