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駄文
知らない大人、知らない気持ち - 02


「…ただいま。」

ガチャリと玄関のドアを開け、かったるそうに、しかし律儀に帰った事を告げる。
カバンと荷物を床に置き、靴を脱ごうと腰を下ろす。
と、奥の方からパタパタとスリッパの音が近づいてくる。

「おかえりー。涼ちゃん、買い物ご苦労さまー。ありがとね。」

座っている涼一の頭をニコニコと撫でてくる母親に顔をしかめつつ
涼ちゃん言うな、とぼそり悪態をつく。
この母親に何を言ったところで聞かないのは嫌と言うほど身にしみて知っているが、
それでも男のプライドから言わずにいられないのは仕方がない。
欠片も気にせず上機嫌に袋の中身を確認している母親は放っておいて、とりあえず着替えてくるか、と腰を浮かせたとき
あら?と言う母の声に止められる。

「涼ちゃん、頼んでたピーマンが無いけど…どうしたの?」

ぎくりと肩を強張らせ、中途半端な体勢のままちらりと母の方に視線を向ける。
内心、流石に目ざといな、とこぼしつつ、元の位置に腰を下ろして先程考えた言い訳を口にする。

「や、今日ピーマンの超激安セー」
「嘘はだめよー、涼ちゃん?」

にっこりとその美しい唇が弧を描き、涼一の言い訳を聞くまでも無く一刀両断する。
言葉を遮られ、静かな空間でひくりと口を引きつらせた後、
涼一は視線をそらして憮然と、嘘じゃ…ねぇし、と唇を尖らす。
そんな様子にくすくす笑い、指で可愛らしい我が子の頬をつつきながら母親は言葉を続ける。

「今日のは違うのよ。あなたの克服用じゃなくて、新しい子がね――」

ふふふ、とどこか楽しそうに、内緒話を聞かせるように話す母の声に視線を移すと
ガチャリ、と、ついさっき聞いた音を立てて玄関が開く。



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あきゅろす。
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