青空にまで続いているような乾いた街道を、さくさくと音をたてながら少女たちが歩いていた。 快晴だ。時折、かすかな潮の香りを含んだ風が正面からふわりと吹き付けてくる。 Prelude Yuzuno's Birthday Gift 2011.8 「何の用事かな…使いをよこして呼び出すなんて」 歩きながらそう言うと、セリスは胸の前で抱えた大きな紙袋をガサリと言わせて持ち直した。 セリスの半歩後ろにいたティナが、持ち歩いていた小さな鳥籠を目の前に掲げる。 籠の中には、銀の筒が付いた足輪をした白い鳩。 ティナに覗き込まれて首を傾げたり、羽の裏を嘴でつついたりしている。 「賢い子ね、この子」 動物の好きな彼女らしく、鳩を見ながら歩いているのだろう。質問そっちのけでつぶやくティナの顔を想像しながら、セリスはまた話し始めた。 「伝書鳩だなんて洒落たことするわね、リルムらしいわ」 セリスの言葉に、ティナはひとつ小さなため息をついた。 彼女達が過ごしている飛空挺の停泊地から程近いジドールに、この鳩を寄越した張本人がいるのだ。 「宿題、ね」 雑草や砂を踏む、さくさくという軽い音が続く。 「セリス、それ重たいでしょ?わたしも持つわ、交代しましょう」 時折ガサガサ言わせて紙袋を持ち直すセリスの前に回り込むように、早足で歩いて振り向くティナ。 「大丈夫、もうすぐそこだから。それにこの荷物はわたしの宿題だからね」 セリスがにこっと笑いかける。 厚手で張りのある白い紙袋はセリスがやっと両腕に抱える大きさで、袋には封が施され、中身を覗き見ることも難しいようだ。 持った感触から、中には布地がぎっしり入っているとわかる。 ティナは腰に下げていた小さなバッグから筒状に丸まった紙切れを取り出し、いぶかしげに眺めた。 手のひらに収まるほどの大きさの紙には、『この鳩をあたしのところまで連れてきてね!セリスおねーちゃんにも用事があるから、一緒に来てね』と書いてある。 二つに折り畳むと、『ティナおねーちゃんへ』と書かれているのがわかる。 「ね…セリスの紙にはなんて書いてあった?」 バッグに紙切れをしまいながら、セリスの隣を歩く。 「その荷物、リルムの宿題でしょ?」 セリスはこくりとうなずくと、また紙袋を持ち直した。 「『カイエンに頼んだおつかいの荷物を、ティナと一緒に届けに来て。中身は見ないでね』って感じの内容だったわ」 それは二つにたたんで『セリスおねーちゃんへ』と書かれた、ティナが受け取ったものと同じ紙切れ。 この二枚の紙切れはまとめてくるくると小さく巻かれて、白鳩と共にセリスの元へ飛んできたのだった。 「カイエンはカイエンで、わたしが荷物を受け取ったらあわてて出ていっちゃうし」 そそくさと飛空挺を後にチョコボで走り去ったカイエンの様子を思い出し、眉をひそめ唇をとがらせた。 彼女が珍しくすねる姿を見て、ティナは『セリスもこんな表情するのね』とくすくす笑う。 「きっとリルムのおつかいは断れなかったのよ、どんなに忙しくても」 年少のリルムを娘のように可愛がっていたカイエンの表情が浮かんだ。 からりとした真夏の風が、ティナの言葉をのせて流れていく。 ジドールが近い。 セリスはまた荷物を抱え直し、「さ、もうちょっとだから急ごうか」とつとめて明るくティナに声をかけると歩幅をほんの気持ちだけ大きくした。 慌てて歩調を合わせるティナに目配せする。 「用事がすんだら、一緒においしいアイスクリームでも食べましょ」 真夏の空気を爽やかにするその笑顔にティナはすこしホッとして、花のように笑った。 二人が笑い合いながら歩いてゆくそのはるか上空を、大きな飛空艇が雲にまぎれるように追いぬいて行った。 小説執筆者様/ふかださま 夜の隙間 小説公開日/2011年08月15日 |
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