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Prelude 8

ロックが拳を空に向かって突き出した次の瞬間、それを合図に屋敷の中から一斉に仲間たちが庭に出て駆け寄ってきた。
それぞれが祝福の言葉をかけたり、ロックに拳をぶつけたりと思い思いの方法で喜びをわかちあう。
仲間たちはいつもより少し着飾って、この瞬間をともに祝おうとしていたのだ。

リルムとティナが、屋敷からイーゼルごと大きな絵画を運んできた。
絵にはアイボリー色をした薄手の画布がかかっている。

ケーキを模した庭の一番奥にイーゼルを運ぶと、ティナはその場にいた全員に聞こえるように話し始めた。

「ロックとセリス、2人が新しい日を迎えた記念に」

ティナの言葉を受けて、リルムが絵画に掛けられた画布に手をかける。

「天才画家・リルムちゃんの最新にして最高傑作だよ!」

ティナも画布に手をかけ、リルムに視線を送る。それを確認すると、リルムがひときわ大きな声を張り上げた。

「さあ、お立会い!」

リルムの声を合図に2人が画布を勢いよく引くと、そこには翼を広げて世界を包む大天使の姿があった。

絵の中の大天使の微笑みは聖母のようで、それぞれの母のようで。
その手のひらから生まれてきた。その優しさのなかで育った。そんな一番古い記憶を呼び起こすような、そんな懐かしい色合いの絵画だった。

その場に居た仲間たちから感嘆のため息が漏れたが、誰からともなく拍手が沸き起こった。
モグとウーマロ、ガウの3人がそれぞれ小さなバスケットを取り出し、中に用意しておいた花びらを散らせる。

「今夜が2人のバースデイだね」

エドガーがどこからか取り出したとっておきのシャンパンの栓を抜いて、拍手を合図に屋敷の使用人が運んできたグラスに注いでいく。

「グラスは持ったかい?それじゃあ、乾杯しようか」

エドガーは全員にシャンパングラスが行き渡った事を確認すると、満足そうにうなずいた。

「恋人たちの新しい誕生日に。」

「やがて来る新しい門出に。」

「小さな天才画家の未来に。」

「今この瞬間も生まれてゆく、新しい命に…乾杯!」


いつの間にか夜風は止み、爽やかな夏の夜の星空が新たな旅立ちを祝福した。


**END**



小説執筆者様/ふかださま
夜の隙間

小説公開日/2011年08月15日

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