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Prelude 3

「セリスー、お待たせ!」

足取りも軽く、ティナはフルーツパーラーの店先に並んだ客席へと駆け寄った。
セリスはこちらへやってくるティナの若草色のポニーテールが揺れるのを見ながら、安心したように「遅かったわね」と声をかけた。

同時にテーブルに置いたグラスには、パステルイエローの飲みものが入っている。気を使ってオーダーを待ったのか、まださほど減ってはいないようだった。

「ごめんね、遅くなっちゃって…何飲んでたの?」

ティナの問いかけにセリスはグラスを持ち上げ、ささっていたストローをくるくるとまわして中身を混ぜた。

「パイナップルのスムージー。アイスクリームにしようと思ったんだけど、せっかくだから後で一緒に食べたくて」

その応えにニコッと笑いかけたティナは、軽く呼吸を整えてセリスと向かい合う形で席に着く。そして新しく客を見つけて近づいてきた店員に、「わたしも、同じのください」とオーダーした。

セリスはティナの手に鳥籠がないことに気づいて辺りを見回した。

「あら、お姫様は見つかったの?」

一瞬ぎくりとしたような表情を見せたが、ティナはすぐにいつもの微笑みを浮かべて答えた。

「ええ、お屋敷の奥で絵を描いていて、わたし達が来たのに気付かなかったんですって」

「うふふ、そんな事だろうと思った!あなたのお使いは終わったんでしょ?」

鈴を転がすような声で笑うセリスを見て、ほっとしたようにティナが続ける。

「ええ、鳩はアウザーさんのお屋敷の方に預けたわ。リルムからの伝言だけど、今描いている絵がものすごくいい所だからちょっと邪魔しないで欲しいって」

セリスがスムージーをすすりながらこくこくとうなずいていると、店員が丸いグラスに入ったスムージーを運んできて、「お待たせしました」とティナの前に置いた。

続いてティナがセリスにした話を要約すると、屋敷の当主であるアウザー氏が居るとリルムが話し相手をしながら絵を描く為、普段はなかなか筆が進まないという。
そのアウザー氏は今旅行に出ていて不在で、今日は集中して作業している。一旦荷物を屋敷の者に預けて、もう2時間ほどティナと時間をつぶしてから再び来てほしい…といった内容だった。

セリスはひとしきりティナの話を聞くと深くうなずいて、スムージーをまた一口すすった。

「じゃあ、これを飲んだら荷物を預けに行こうかな。ティナ、ゆっくりでいいからね」

セリスの持っているグラスはすっかり汗をかいている。水滴は傾き始めた日の光を集めて、きらきらと輝きながらテーブルに落ちて行った。


小説執筆者様/ふかださま
夜の隙間

小説公開日/2011年08月15日

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