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その他小説
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 その時は確か急いで配達して終わったんだよね?


 父が復活した後、婆やさんが感謝していたと言うのは又聞きで耳にしたけど。

 それから1年以上の間、高城様とも婆やとも逢う機会はなかった。


 そして、そんな事もすっかり忘れた頃。

 僕はこの高校に入学した。


 高城様が偶然この学校の生徒だった事に驚きつつも、僕みたいな一般生徒がお近づきになれる様な状況ではなくて。

 向こうもきっと僕の事など覚えてないだろうと、思い込んでいたのに。


 仲の良い友人も出来て。

 平々凡々な高校生活を送っていた僕の生活が、急変したのは2学期始まってすぐの頃。


 確か理科の移動教室の時に。

 本当に偶然、特別教棟で酒田と会話している高城様と鉢合わせたのだ。


 その時の高城様の顔は、忘れたくても忘れようがないよ…っ。

 カッと目を見開いて数秒固まった挙句。

 酒田に何か耳打ちして、嫌がる僕を無理矢理捕獲させたのだ。



 そうして連れてこられたのが、この屋上で─…。

 その時ここでサボっていた奴らと酒田を追い出して。


 暫く逡巡した後、この暴君が口にしたのは。


「明日から毎日デザートを作って来い!
 折角だから、昼休みにこの俺様が食べてやる」


 と言う、なんとも微妙な台詞だった。


 その言葉を聞いた途端、婆やさんの話を思い出した僕は。

 状況も弁えずに、ついふき出してしまった。


 くすくす笑う僕の態度に、甘党である事を知られていると再確認した高城様は。

 憮然としながらも僕を咎める事なく、笑いが一旦収まるまで待っていてくれて。


「もしもバラしたら、命がないと思え?」


 去り際に僕に背中を向けたまま、そう脅して来たけれど。


 その耳は真っ赤で。

 高城様が居なくなってからも、僕の笑いは続いたのだった。



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