その他小説
15
そうやって始まった二人っきりの昼休みは。
デザートだけのつもりが……。
俺様の食生活の乱れを危惧した尚人が、慣れないながらも手作り弁当まで作ってくれる事になった。
極上のデザートと比較して、弁当の方は正直見た目も味も中の下ぐらいだったのだが。
尚人がいつもより早起きして、俺様の為に作ってくれていると言うだけで妙に気分が良かったのだ。
そんな俺様達に周りの反応はと言うと。
何故かたいして大きな騒ぎにはならなかった。
俺様が尚人に対して微妙な感情を持て余しているのを知っているのは、幼馴染の竜之介ぐらいで。
後の人間は昔の知り合いに弁当を作らせているぐらいにしか思ってないのだろう。
実際尚人自身は、俺様のお抱え料理人という名のパシリだと公言しているそうだ。
念の為、酒田と数名の護衛はつけたが、今のところ登下校時に絡まれたりといった実害はないらしい。
多分昼休み以外に偶然すれ違っても、会釈程度で会話も交わさない所為だろう。
俺様達の関係を勘繰る奴らはほとんど居なかった。
逆にクラスメイトでもある酒田とは必要以上に仲が良い様で。
尚人の世間話には度々奴の名前が登場して、俺様をヤキモキさせた。
酒田の方からも、あからさまに護衛する訳にもいかないからと、カムフラージュに友達ごっこをしていると報告を受けていたのだが……。
だったら俺様だって親しくしても問題ないだろう?と思う気持ちはあったが、それについては尚人に丁重に断られてしまったのだ。
知れば知るほど、牧野 尚人は不思議な奴で。
こうやって俺様と二人きりで食事をしているというのに、まったく態度が変わることがなかった。
普通は俺様のような限りなくパーフェクトに近い男が傍に居れば、男女関係なく少しぐらいは意識する筈なのに。
何故か尚人はこの俺様を捕まえてお子様扱いで。
好き嫌いは駄目だとか、残さず食べないと明日からデザートは作らないだとか……。
その言葉にムッとした俺様が無理難題を言っても、何故か全て許容されてしまったのだ。
最初の頃は酷く馬鹿にされているような気がして、イライラしたものだったが。
きっとあの姉の相手で多少のわがままには慣れているのだろうと思い至ってからは、下手に抵抗するのは逆に格好悪い事だと気付かされた。
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