その他小説
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このままわかれたら二度と話す機会なんてない……そう思っての行動だったが。
とは言っても共通の話題などあるはずもなく。
頭に浮かぶ事と言えば、尚人の姉と実家の洋菓子屋ぐらいで。
流石にあの女の近状を聞くのは可笑しな話だろう。
かと言って、ケーキの礼を言う為にストーカー行為をしていた等と、今更恥ずべき過去を持ち出す気にもなれなかった。
引き止めておきながら黙り込む俺様を、尚人は不思議そうに見つめていて。
その事が更に焦りに拍車を掛けた。
とりあえずこの場を凌ごうと、俺様は慌てて頭に浮かんだ台詞を口にする。
「あーーー、そうだ、明日から毎日デザートを作って来い!」
「は?」
「ここで再会したのも何かの縁だ。
折角だから、昼休みにこの俺様が食べてやる」
「………ぷっ」
拒否権を与えないつもりで半分脅すように言ったのに、何故だか尚人はくすくすと笑い出したのだ。
そうやって笑われる意味がわからずに、俺様は尚人の笑いが収まるまで待ち続けた。
どうやら過去に婆やが余計な事を言ったが為に、尚人は俺様が隠れスイーツマニアだと思い込んでいたらしい。
甘いものが好きなのは事実だが、普段あまり食べる機会がないだけで周りに隠し通していた訳ではないのに。
「もしもバラしたら、命がないと思え?」
ならばその誤解を利用させてもらおうと、更なる脅しの文句を口にすれば。
堪え切れないとばかりに、尚人は涙を浮かべて笑い転げる。
畜生…っ、俺様らしくもない。
羞恥で熱くなる顔を隠し、俺様は逃げるように屋上を後にした。
自分でも馬鹿みたいな台詞を口にした自覚はあるが……。
普段怖がられる事はあっても、こんな風に笑われた事等一度もなかったのだ。
尚人が絡むといつも調子が狂ってしまう。
こうやって俺様が誰かに執着すること自体稀なのだ。
このままではあんなに必死で否定した、片思い疑惑までもが再浮上する勢いだった──。
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