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その他小説
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 そうして慌てて戻った俺様を出迎えたのは、妙に笑顔の婆やと何人かの使用人だった。


 たとえ俺様の誕生日だからといっても……。

 家に居るか居ないかわからない俺様のために、多忙な家族達がわざわざ帰ってくるはずもなく。


 俺様の方だって、家族で仲良くお誕生会なんて茶番劇、まったく望んでなかった。

 逆にそれを強要されなんかしたら、間違いなくキレるだろう……と思うのだ。


 それでも誕生日やクリスマスの度にわざわざ戻ってくるのは。

 血が繋がっているとは言え、年に数度会うか会わないかの祖父母より何十倍も身近な存在である婆やが。

 俺様の喜ぶ顔が見たいが故に、毎回何かと準備してくれているのを無碍に出来ないからで。


 だからと言って、思惑通り素直に帰るのも癪で。

 なんだかんだと文句を言いつつ渋々……と言った態で玄関をくぐった俺様に。

 婆やはケーキを食べる前に、ちゃんと手だけは石鹸で洗うようにと言い出した。


 その時の俺様の姿と言えば。

 喧嘩帰りで返り血を浴びてベタベタだったと言うのに、だ。

 こういう時、まずは風呂に入れと言うのが普通じゃないのか!?

 実際俺様だってそのつもりだったし、そこまで急いでケーキを食べる必要性も感じなかったのに。


 婆やが早く早くと急かした理由。

 それはケーキ上に描かれた“輝様、お誕生日おめでとうございます”の美しい文字を目の当たりにした時に。


 ちょうどダイニングの時計がボーンボーン……と、12回なった事で気が付いたのだった。



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あきゅろす。
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