[携帯モード] [URL送信]
双剣士の腐れ縁 2
 有無を言わせぬ口調で踵を返すと、白鳥は紫苑を引き擦るように歩いていった。
 この町は王国の中でもかなり田舎の方で、真っ昼間から人影は疎らだ。
 そのせいで、二人の姿はいつまでも消えない。寧ろ、その数少ない人々からもあからさまな奇異の目を向けられている。

 一瞬停滞したような沈黙が漂ったが、結局残された二人の双剣士は買い物に行くことにした。どのみち、傷薬や魔法薬は買い足さねばならなかったところだ。
 元々二人は同じ学院の出身の同期なので、付き合い自体はかなり長い。間に漂う静寂も、特に気まずいものではなかった。

「相変わらず、お金ないの?」

 なるべく安い店にしようときょろきょろしていた鴉を見て、紅梅が悪戯っぽい声を上げた。
 少なくとも、そんな言い方に苛立たない程度の仲ではある。

「……ない」
「ってことは、お父さんたち、まだワンちゃんネコちゃんたちと集団生活なんだね」
「寧ろ、前より増えてるんだ」

 思わず愚痴っぽい口調になってしまったが、それも致仕方ないことだと鴉は思う。



 彼の親は、とにかくあらゆる生物に対して慈悲深かった。巣から落ちた小鳥は当然拾ってくるし、孤児も放っておけない。
 そして両親が何より心を痛めたのは、いつまで経っても一向に減らない、捨て犬や捨て猫の存在だった。
 しかし二人がいくら街頭に立って演説しても、人々は見向きもしなければ聞きもしない。それを見て、鴉の両親は一念発起した。

 街の郊外の森を切り拓き、巨大な家を──正確には、頑丈な柵で覆ったちょっとばかり大きめの会館のような家を建てた。
 そしてそこで、孤児や拾ってきた犬猫と共に暮らし始めたのである。
 が、何より資金繰りが上手く行かない。寄付金など雀の涙より少ないし、鴉以外にいる子供たちがいくら必死に働いて仕送りしても追いつかない。
 それでも両親はその生活をやめず、自転車操業で家計は何とか立っていた。
 それは今でも同じで、鴉はだからこそ、より稼ぐことの出来るギルドに入ったのだ。

 その辺りの事情を、紅梅はよく知っていた。というか、学院にいた頃に鴉が思わず話してしまったのだ。
 以来、彼女は時たま援助金を送ってきてくれている。
 鴉も、始めはさすがに悪いからと突っ返していた。
 が、最近は本当に金銭面が洒落にならないところまで来ているので、有り難く頂戴している。


「……そういえば、この間はありがとう」
「え? 何が?」
「いや、またお金、送ってきてくれただろ」
「ああ、それは……」

 紅梅は何故か苦笑している。鴉は、思わず首を傾げた。
 自分はあくまで、つい先日の送金の礼を言っただけである。
 普段より随分と金額が高くて(具体的に言うと、桁が二つほど増えていた)家族一同度肝を抜かれたのだが、差出人はきちんと紅梅になっていた。
 が、紅梅はまだ笑っている。今度は、どこか悪戯っぽく。

「それ、紫苑だよ」
「……は? で、でも、差出人は」
「こないだ、私たちが拾ったワンちゃん、引き取ってくれたでしょ? その時に鴉のこと、紫苑に話したの。そしたら、“じゃあ俺も送る”って聞かなくて」

 ──だからあんな、一種非常識とも取れるような額だったのか。
 思わず呆然と立ち竦んでしまった鴉を、紅梅はどことなく不思議そうに見つめている。

「え? 何、紫苑、そんなに送ったお金少なかったの? それとも、なんか変なもの送ってきちゃった? ねえ、教えてよー」

[*前へ]

6/6ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!