竜騎士と双剣士(紅)
その男は、竜騎士である。この王国ではそこそこに名の知れた、竜騎士である。
ちなみに竜騎士とは文字通り、竜を従えることの出来る騎士のことだ。それも、槍を使用する者に限られる。
そして一口に竜と言っても、地を駆けることにのみ特化しているものと飛行することに長けているものがいる。
しかし竜騎士は、原則一体しか竜と契約することが出来ない。契約を破棄することも出来るが、その際には竜たちの独特のネットワークによって今後二度と竜と契約することは出来ないとか。詳細は、定かではない。
とにかく、一言に竜騎士と言ってもいろいろいる、ということを留意していただきたい。
「ねー、ゴブリンとウルフ、どっちがいい?」
「……ゴブリンかな」
「了解ー」
青年の頭髪は、その名前と違わぬ紫色だった。
彼自身も無意味だと思うくらいさらさらしているが、これは元々の髪質の問題なのでどうしようもない。
彼の名は、紫苑という。紫を基調とした鎧に、背には巨大な槍。
そして今まさに、雑多な印象以外抱くことの出来ないギルドカウンターで仕事の手続きをしているのが、青年とコンビを組んでいる紅梅である。
梅の花のような色合いの、鮮やかかつ艶やかな頭髪は、襟足で切り揃えられている。まるで、花の蕾のように。
赤っぽい色で揃えられた装備品は、どこにいても目立つ。腰の左右には、同じ種類の短剣が吊られていた。
ちなみに、彼らの名前は皆ギルドに登録した際に貰う仮の名である。またの名を、偽名ともいうが。
ギルドで請け負う仕事は、何も魔物の討伐だけではない。時には、相手から逆恨みされそうなこともしなければならないのだ。
カウンターで仕事の振り分けを行っている女性が、専用の魔法陣の上にクリスタルを翳す。程なくして、無色透明だった石に青い光が宿った。
一瞬、女性の身に着けている白いエプロンが翻る。
仕事は種類別に色分けされていて、青は無論魔物討伐任務の色である。
種類問わず難易度が高いものは赤くなるし、荷物の運搬などどちらかというと荒事ではない場合は緑だ。
その他にもいくつかあるらしいが、少なくとも紫苑はクリスタルがそれ以外の色になったところを見たことがない。
「終わったよ」
「場所は?」
「洞窟付近だって。目標は、三十」
淀みないやりとりを交わしながらも、紅梅は腰の後ろ側に付けているウエストポーチの中身を漁っている。
「……ごめん、魔法薬切れてたんだった」
「じゃあ、補充しに行こうか」
「うん。紫苑は?」
「俺は、さっき確かめたから」
とは言いつつ、彼は最低限の傷薬しか持っていない。そのため、紅梅のようにポーチも持ち歩いてはいなかった。
道具類を持っているのは、主に彼女の方である。
紫苑はあまり気にしていなかったが、最近物価が上がっているとぼやいていた。
埃っぽい空気を溜め込んだ室内から逃げ出すように、紅梅は思い切りよく両開きの扉を開け放つ。わざと薄暗くしているらしいギルドの中に、一瞬麗らかな日光が差し込んだ。
そろそろ、呼んでおいた方がいいだろうか。
紫苑はその隙間に身を滑り込ませながら、自身の手の甲に触れた。そこには、先ほどの魔法陣とはまた違った、複雑な紋が刻まれている。
竜騎士の証ともいえる、竜との契約の紋だ。彼らはこれのおかげで、念じるだけで竜を呼び出すことが出来る。
が、竜たちはこことは違う次元の場所に自分たちの住処を持っているため、時には呼び出してから現れるまでにある程度の時間を要するのである。
「紫苑?」
彼が悩んでいるうちに、紅梅はかなり先へと進んでしまっていた。その場で振り返って、立ち止まっている。
そよ風で、紅色の髪が緩やかに揺れている。
まあ、後で考えればいいか。
紫苑はひとまず意識を紋から外して、紅梅の元へと駆けて行った。
雑踏の中には彼らを追う視線があったのだが、そんなことを二人はまだ知らない。
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