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ショート
レトロと雑談(仙流)
「お、ここいらスポーツだな」
仙道がしゃがんで雑誌を眺めながら言った。

レトロな喫茶店に雨宿りする事になった二人は、珈琲が来るまでの間に仙道が自由閲覧の棚を覗き込んでいた。
流川はそれに視線を送りつつ、椅子に座っている。
どーせバスケはねーんだろと流川が思った通り、それらは野球の物だった。

「うわ、すげー、王や長嶋が選手だった頃のまである」

「………ダレ?」
「───────はあっ?!」

少し間を置いて派手に驚く仙道が流川に向いた。
「えっ流川、聞いた事ねー?超有名な往年のスター選手だぜ。オレだって選手の頃は知らねーけど、名前と顔ぐれー知ってるぞ」

そんな言葉に流川はムッとするが、知らないものは知らないのだから仕方がない。
否、聞いた事はあるのかも知れないが、憶えるまで他競技に興味がなかったのだ。
仙道も昔だから仕方ないのかと思って、今頃のスター選手を改めて訊いてみる。

「じゃあイチローとかは?」
「……それは知ってる、名前と顔は」
「そうなのか?何で?」
「アメリカ行った」

……成程、そこに興味が掛かったか。

とは言え自分だって野球は体育の授業でした程度にしか知らないので、それ位にして席に戻った。
そこで香り高い珈琲がテーブルに置かれたので、まずはゆったりとそれを味わう。


「ホントにおめぇってバスケにしか興味ねーんだなぁ……他に好きな物とか……あ、動物は好きだよな」

今更な事を言われて流川は溜め息をつく。
しかし、彼は仙道の顔をじっと見て、小さな声で告げた。

「それと、アンタな」

ブハッと吹き出すかという程の衝撃に、咄嗟に自分の口を押さえて回避した仙道は、赤くなった頬を隠すみたいに頭を抱えた。
今更どうしてそこまで動揺するのか解らないといった風に流川が彼を見つめると、仙道はハッとして店のマスターの様子を窺う。

特に話を聞いている感じには見えず、グラスを磨いていた。
例え聞こえても聞かぬ振りをするのがプロなのかも知れないが、そこまでは判らない。


本当に自分達の関係を隠したいなら、外では如何なる時も危ない発言や態度はしない事だとは思う。
けれども何処かでバレたらバレた時とも思っているのかなと何となく仙道は考える。
公表してしまいたい欲求というのは、ないとは言えないものだから。
しかし現実的には、自分達を守る為にも無闇に公表するものではないのだという理性が働く。

本気で惚れた相手と一緒になっただけ───ただ異性ではなかったというだけの事なのに、という理不尽に思う気持ちもあるけれど、社会は上手く渡るに越した事はないのだと、大人になる中で学ばざるを得ないのだ。


するとBGMが自分にとっても懐かしい曲になり、ふとそちらに意識が向いた。
当時を思い出して、仙道は流川との会話に戻ったのだった。



───────おしまい。

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あきゅろす。
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