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リハビリ的小説
I





俺がはるかを泣き止ませていると、男は立ち上がって、周りを見渡した。


「チッ、ギャラリーが増えてやがる。このままじゃまた通報されかねねぇな。しょうがねぇ、そこのお前」


また、と言った部分は少々気になるが、今まで事の成り行きを見守っていた男はめちゃくちゃ偉そうな態度で話し掛けてきた。


「なに」


はるかの涙を拭きながらも、ついついぶっきらぼうな言い方になってしまう。


「あー、と。なんだ、その……勘違いして…悪かった」


歯切れが悪くとも言われた言葉に一瞬、俺は自分の耳を疑ってしまった。


(今、謝られた……!?)


偉そうな態度ながらも、バツが悪そうに顔を背けながらの謝罪で、まさかの事態に男をまじまじと見つめたまま固まってしまった。


「ゆたちゃん?」


その声で我に返るとはるかが不思議そうに俺の顔を覗き込んでいた。


「あ、ああ。何でもない。ほら、綺麗になった」


「ん。ゆたちゃん、ありがとー!」


そんなやり取りをしていると男がいつの間にか近づいて来ていて、ヒョイとはるかを抱き上げた。


「そろそろここを離れるぞ。マジでギャラリーにいつ通報されるかわからねぇからな。
俺の家はすぐそこだから着いてこい。はるかを保護してくれた礼と頬の治療、それから服の弁償もしたいからな」


そう言って俺の返事も聞かずに踵(きびす)を返し、スタスタと歩いていく。


その時、断ることも出来たのだろうが、俺は言われるまま男に着いていった。


その一歩が、これからの平凡なはずの俺の人生を大きく変化させるものだとは知らずに俺は歩きだす。


運命の歯車は回りだす───。







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あきゅろす。
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