鳳凰戦華伝 捌 遥か後方で、火の手が上がった。 轟音と共に現れたそれを、しっかりと二人は瞳に捉えていた。 「あれは……朴玻村じゃねぇか?」 怪訝な声は颯雲のもの。 強い海風によって、煙は流れていった。 椿は、太刀を収めることもせず、そのまま馬に飛び乗った。 太刀を持たない左手で手綱を引く。 「……おい、あのでかいの乗せられるか?」 唇を噛み締める颯雲を見て、椿は馬に話しかけた。 やはりこの馬は人語を理解しているのではなかろうか。 当然だとでも言わんばかりに、馬は鼻息を吐いた。 椿は驚いたように目を見張り、それから笑った。 「……おい!颯雲!」 怒鳴られた颯雲は、椿をふいと見た。 口元に笑いを浮かべた椿は、顎で自分の後ろを指す。 それに気づいた颯雲も椿と同様に、馬の背に飛び乗った。 「こんな細っせぇのに俺、乗せられるのか?」 「こいつが大丈夫だって言ってんだから大丈夫だろう」 言うと椿は、再び手綱を引き、勢いよく細道を駆けた。 向かう場所は、朴玻村。 そして世界は、一人の女により激動と化す。 民が、立ち上がる時。 女は世界を識る。 [*前へ] [戻る] |