鳳凰戦華伝
陸
「裏仕事に手を付けている奴らが集まる場所を教えてくれ。恐らくは、この辺りだ。そう言った奴等の中じゃ、あの場所と呼ばれているかもしれない」
その言葉に、優真は笑みを深めた。
そしてすぐに、懐に入れていた地図を取り出す。
「各地にそう言った場所は点在してるが,ここから一番近いのは陽逆の地だ。特にこの地方の役人は、陽逆の幻黎組って組織に入ってるらしい。組織の概要はまだ分からないが、話によると上下関係が厳しいって話だ。役人でも関係ないらしいな」
そう言いながら、優真は地図で陽逆と書かれた場所を指差し、新たな事柄を巻物に記していった。
最後にその巻物を巻き取り、椿に渡した。
「だが、気を付けろよ。陽逆はかなり痩せた土地で、あまり来訪者にも優しくはない。それにそんな土地柄で、盗賊やら山賊やらが増えてる。幻黎組も、良い噂は聞かない。女の身で彼処に殴り込みに行くのは、相当の猛者だ」
案外と直球に、自分たちが猛者だと言われた。
勿論、月下の方は椿の今後の目的など知りもしなかったが。
「……分かっているさ。……礼を言おう。優真」
巻物を受け取った椿は、静かにだが不敵に微笑んだ。
「それじゃな。次からはちゃんと情報料貰うから」
そう言って優真は、椿たちが来た道を歩いて行った。
その姿が完全に消えた頃、椿は馬に乗り込み、その巻物を睨んでいた。
「次の目的地は、陽逆?」
「……あぁ」
巻物を睨んでいる椿を見て、月下は柔らかく言った。
その穏やかさで椿の眉間の皺が取れるとも思わなかったが、月下はとりあえず笑っていることにした。
相手が難しい顔をしている時は、自分は笑う。
それが彼女の、一つの生き方だった。
場所は変わって、零宵国陽逆の地。
そこに、亜麻色の髪を持った娘がいた。
聡明そうな瞳。目鼻立ちがすっきりとした、痩身の女性。
そして、その賢そうな瞳を裏切らずに、類稀なる頭脳を持ち合わせる。
この娘との出会いによって物語はゆっくりと鳴動を始める。
世界は変わる。
やがて花の名を持つ女は、美しき鳳凰の魂と共に、世界を飛ぶだろう。
月が見守る中、椿は気高く咲き誇る。
[*前へ]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!