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集いし者ー全てを繋ぐ光の鍵ー



聖薔と別れた薔薇姫と雪姫乃嬢は、全速力で街道を駆け抜けていた。


やがて雪姫乃嬢が、掴まれている腕を少し引き戻す。


「ちょっと待ってよ。薔薇姫!」

「あ、ごめん。手、痛かったよね」

気づいた薔薇姫はさっと腕を下げた。

だが雪姫乃嬢は、少し困った顔をしている。

「そういうことじゃないんだけど……。ねぇ、何でいきなり逃げたのよ」

腕を組みながら、雪姫乃嬢は言った。
その様子に、薔薇姫は一瞬反応したが、一秒と経たない内に平常心に戻る。

「逃げたって誰から?」

そう言ったが、雪姫乃嬢は目敏く一瞬の反応をとらえていた。


「あの女の人から。ついでに、わかってるだろうけど、私は騙せないよ」

「さすが」

反応を指摘されても、薔薇姫は動揺を見せなかった。
むしろ、指摘されるのを期待していたような態度である。

「強いよ。あの人。ああいうのは、私が仕事するなかで一番やりにくい相手。周りの人もそうだった。危ないなと思ったから、逃げたの」

やはり元から言おうとしていたことなのか、饒舌に言葉をなげている。淡々と喋る中で、表情一つ変えなかった。

「じゃあ、なんであの人に声、掛けたのよ。道聞くだけなら誰でも良かったじゃない」

「私だって失敗したなと思ったよ。多分、あの人達も呼ばれた人ね」


そうしている中で、不意に歩き出す。
街道のど真ん中で、人の流れを遮ってしまっているのだ。
さすがに邪魔だ。


「とりあえず、神殿に向かいましょ。多分、大丈夫よ。薔薇姫が言うなら確かに強いだろうけど、敵意は無かったから」

「そうだね」



大衆の人の流れに乗っかって、二人はスクルド神殿を目指した。
















「神々の聖誕祭ってこんな人いるもんなの?」

リーンルーフのある街道には、男女合わせて十人の集団があった。

一様に違った雰囲気を漂わす彼らは、人の目にはそれなりに異様に映る。

ハニーブラウンをした髪の少女の、先の問いに対して答えを出したのは、黒く長い髪を持った美しい少女だ。

「例年、様々な町から人が来るそうよ」

それだけを言ったが、例年の人の多さを物語るには十分だった。

もとより人混みの苦手な、ハニーブラウンの髪の少女、薫は少々覇気を無くしている。

異様な雰囲気を持つ黒のスカートや白のブラウスが、明るい色素の彼女を異様な暗さを醸し出していた。

「でも、楽しいのよ?」

可愛らしさが残る少女が言った。
名を凛。薫と似たような、だが確実に雰囲気の違う白のワンピースを身に着けている。

彼女は辺りを見回しては、装飾品や小物の店に気を取られているのだった。

「ほら、薫。かわいいよ。これ」

凛と同じく、金髪の少女サリアナは、薫を呼び止めながらゴシックデザインの装飾品を見せていた。

カジュアルな服装が快活に笑う彼女によく合っている。

「これ別に私の趣味じゃないんだけど」

薫も自分の服を見てそう言いながらも、サリアナや凛の元に近寄っていた。後に、黒髪の少女、杏樹も続く。

「おいおい、置いていくぞ」

微かに笑うのは、青い髪の少女。
だが、その姿に少女らしさは全くと言って良いほど、ない。
ボーイッシュな服装の彼女は、名を天音と言うが、本人も自覚するように男らしさの方が勝る。

そうして、彼女に連れられて戻ってきた少女達は、手に小さな紙袋を持っていたりした。


「なかなかに楽しんでるね」

苦笑いぎみに、柔らかな表情を浮かべる青年が一人。

他には、微笑を浮かべる青年は三人。
あくびをかみころしている青年が一人。


「陸也。速く行こうぜ。すっげ、眠い」

苦笑いを浮かべる青年、陸也にあくびをしながら提案するのは颯人と言う青年。
彼も普段は、快活でうるさい程に場を盛り上げるのだが、今は眠気でそんな気も起きないらしい。

「うん。そうだね。みんな、行こうか」

陸也は温厚そうな笑顔を向けて、先頭に立って歩き出す。



するとそこへ、全速力で何かが駆け抜けた。
集団の中心を見事に分けて、それは通り過ぎた。
彼等は反射的に避けたが、リーンルーフの住民の中には避けきれず、ぶつかっている人も見受けられた。


目で追うと、何とも鮮やかな髪色を持った少女が四人。

「あぁ。ごめんなさい。かなり急いでたもので。怪我ないですか?」

その中の一人が、住民を助け起こしていた。
彼女は桃色の髪に青い瞳だったが、達観したような表情が、彼女への純粋な感想を憚らせた。

「そっちの人達も怪我はないですか?」

金髪に緑の瞳。サリアナよりも濃い色素の少女が十人を見て言った。
桃色の少女よりも活発そうな口元が印象的だ。


「あぁ。俺達は大丈夫ですよ。気にしないで下さい」

十人の中の、若緑の髪の青年、雷人が美しいテノールで答えた。

その表情は相変わらず読めない。


「それなら良かったです」

あくまで礼儀正しく言った少女だったが、どこか値踏みするような瞳を向けられる。
にこりと笑ったその表情は、彼等と対して年が変わらないようだが、あふれでる気品が年を感じさせなかった。


「それでは。ご迷惑をお掛けしました」

最後に一礼し、再び颯爽と全速力で去っていった。


「何だ?あいつら。普通じゃねぇよな?」
颯人が誰にともなく呟いた。
数瞬、沈黙があったがすぐに、サリアナの双子の兄、クロウズが分析しだす。

「彼女達も、おそらく別世界の人でしょうね。桃色の女性には不思議なものを感じたけれど」


彼女達が去った街道を見つめ、クロウズは見据えるように碧眼を細めたが、凄まじい速さで遠ざかった彼女達は、すでに米粒にも見えなかった。


「と、言っている間にも、君の妹とか薫さんとか凛とか天音さんとか杏樹とかがいなくなってる訳だけど」

と、雷人が嫌味を含めて言った。
くえない微笑を浮かべる彼は、文句のない美しさだが、ある一部の人には限りない不信感を与えるそうだ。

そしてクロウズは、そのある一部の一人だ。不穏な空気になりかけたのを、黒髪の青年が絶妙なタイミングで諌める。

「まぁ、落ち着け。彼女達を探さなきゃならんし、せっかく来たんだ。俺達も祭りを楽しもう」

かなり大柄な、名は灰と言う青年だが、容姿に似合わず優しく穏やかな性格だ。
自分たちの世界では、シベリアンハスキーのようだと言われてもいた。

そんな彼に言われて、雷人とクロウズはなんとなく居づらくなる。

「そうだね。灰の言う通りだ。彼女達を探すのと一緒に、色々見ていこうか。いいよね?雷人、クロウズ」

陸也も有無を言わせない穏やかな笑みを湛え、二人を諌める。
「別に、構いませんよ」
「俺も異論はないです」

居心地はやはりなんとなく悪いが、少なくとも二人の間に、不穏な空気は流れなくなった。

すでに遊ぶ気も寝る気も満々の颯人は、陸也達が見える範囲を自由に歩き回っている。
少し遠くから、陸也の有無を言わせない穏やかな笑みを見つけて、苦笑いを浮かべていた。

















そんな訳で、彼らはわずかな時間ながら、遊ぶことに専念していたのだった。


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