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集いし者ー全てを繋ぐ光の鍵ー
精霊時空


「〜精霊時空〜」







「ふざけないで下さいな」

レンジェクト王国第一王女、アリアスは珍しく怒っていた。

怒っていると言っても、笑顔であるし、目が笑っていない訳でもない。

正真正銘、聖母のような笑みだ。

何故、その笑みが怒っていると分かるのかと言うと、唇から出る言葉と彼女の双子の妹が相当、怯えているからであって。
ついでに、背後から何か黒いものが見えるような見えないような。


「とんだ誤解だ。俺はいつでも真剣そのものだが?」

アリアスが凭れている壁に手を着いて、同じように笑む男が一人。

名をヴィオン。
アリアスが怒っている原因は彼によるところが大きい。


「蹴りますよ」

「お好きなように。避けられるから」

このような同じ態度をかれこれ十分は続けている。

二人から離れ、怯えながらも長い眼で見守るのがルディア。
レンジェクト王国第二王女である。


「ねぇ、アリア。何でそんなに怒ってるのよ。旅行に行こうって言われただけじゃないの」

痺れを切らしたルディアが、仲介を試みる。
ここにもう一人、ヴィオンを止められる彼の親友がいたら、上手くいったかもしれない。しかし、生憎と出掛けている。

仕方なしにルディアは一人で、姉とその友達―アリアスは否定するだろう―の仲介に着くことにした。


「あのね、ルティ。私達の机を見てご覧なさい。とても遊びに行ける状態ではないでしょう?」

なるほど確かに。
机には多数の書類が乗っかっている。
丁寧とは言い難い置き方だ。

微量であったが、遊び盛りの少女にはなかなか大変だろう。

「う〜ん、確かに。お母様から出された言わば課題だからね〜。下手にサボれない」

「お母様に逆らったら何があるか分からないもの。そんなときに、この男は!」

ルディアが納得したのを知ると、今度はヴィオンの方に振り向いた。

「別に大丈夫だ」

しれっとしたヴィオンに対して今度こそ、怒りを顕にする。

「何が大丈夫なんですの!王城に忍び込んでいる事自体、大丈夫じゃあないです!!」

肩をすくめたヴィオンは相変わらず笑みを崩さずに、再びアリアスの腕を取った。


「時間がないなら問題はないさ。旅行に出かけるのは、せいぜい四、五時間だ」

アリアスよりも頭一個半、背が高いヴィオン。
アリアスにとっては、上から覗き込まれるようにされたら、影になってかなり暗い。


「退いてください。……で、どういう事です?」

暗さから脱するため、身をずらさせたアリアスだが、先ほどのヴィオンの言葉は効いたらしい。

ヴィオンは大人しく身をずらすと笑みを深くした。

「興味を持ってくれたみたいで何より。四、五時間って言うのはこっちの時間で、実際に俺達が体験するのは四、五ヶ月だ」


「言っている意味がよく分かりませんが?」


「見りゃ分かるさ」

眉根を寄せたアリアスの手を引っ張り、外に連れ出そうとする。連れ出すと言っても、窓からだが。


「見れば分かるって、……きゃあ!な、何をしようとしてるんです!!」

アリアスを小脇に抱え、そのまま窓の縁に足を掛ける。
抱えられたアリアスは、まさしくパニック状態だ。

しかしヴィオンは、そんなアリアスを無視して、窓から飛び降りた。

悲鳴が聞こえたが、途中でピタリと消えた。


事の成り行きを見守っていたルディアは、聞こえなくなった悲鳴に違和感を覚え、窓を覗き込んだ。

ちなみに二人が飛び降りるのを止めなかったのは、ヴィオンの運動神経の良さと自分の姉に怪我をさせる事はないと知っているから。


しかし、窓を覗き込んでも二人の姿が見えない。
首を傾げていると、ガチャッと背後の扉が開いた。

本来の出入口から入ってきたのは、黒髪の青年。

ルディアが青年の名を呼んだ。

「ジーク」

「よぉ。ルディア。あれ、二人は?」

軽く手を上げて挨拶を返した青年ジーク。アリアスとヴィオンの姿を探した彼に、ルディアは動作だけで居場所を示した。

窓の外を単純に指差す。
外を差した後に、指の向きを下に変える。

それを見たジークは苦笑いを溢した。


「あいつら、もう行っちまったのか」

ジークの呟きは聞こえなかったのか、ルディアは手を降ろして告げた。

「途中から悲鳴が聞こえなくなって、いなくなっちゃった」

ジークは相変わらず苦笑いを浮かべるだけ。
ルディアはそれを気にした風もないが、しきりに窓を覗いている。


「ねぇ、ジーク。こっちの時間で四、五時間。自分たちが体験するのは四、五ヶ月ってどういうこと?」

ジークはヴィオンの親友。
ならば、この言葉の意味も分かるかとルディアは聞いた。


「ん〜、見りゃ分かるだろ」

と、ヴィオンと同じ答えを返すと、ジークはルディアを小脇に抱え、窓から飛び降りた。


ルディアは目を見開いたが、アリアスのように悲鳴を上げはしなかった。


故に分かりにくいが、飛び降りた窓から見ると、二人の姿が途中でふっと掻き消えたのが分かるだろう。







かくして彼らも、交差時空へと足を伸ばした。

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あきゅろす。
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