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精霊輪舞〜姫君見聞録〜
〜二滴 探偵姫君〜




レンジェクト王国の姫君は、ある有名な探偵でした。







「〜二滴 探偵姫君〜」







「さぁ、出発よ!」
「それはいいけど、どこに行くの?」
「「・・・・・・。」」


王城の目の前で、二人の姫は、右往左往していた。

『馬鹿ね。二人共。手紙に書いてあったじゃないの。』
「スィリ。」

ルディアはスィリーセイのことをスィリと呼んでいた。

『ちゃんと内容を読みなさい。』
「レーン。」

アリアスはセイレーンをレーンと呼んだ。


契約精霊にたしなめられたアリアスとルディアは、懐にしまっていた手紙を引っ張り出し、食い入るように見つめた。


双子の姫は、要点以外を吹っ飛ばす癖がある。

「ローライズ峠に近いわね。」
不意にアリアスが、口を開く。

「じゃ、仕切り直しね。」
ルディアは追随するように言った。




「「いざ、ローライズ峠へ。」」









「ね、アリア。私達だってばれないよね?今さらだけど。」
「大丈夫よ。いつもばれないじゃないの。」

ばれる、ばれないとは、彼女達が変装しているから。

王女でありながら、正規の試験を通った宮廷精霊契約士。

精霊契約士とは、精霊との契約を行う者の事。
宮廷精霊契約士は強い力を持つ精霊契約士を集めた、レンジェクト王家お抱えの契約士の事。

レンジェクト王家とは、アリアスとルディアの家。


彼女達は、自ら精霊契約士となったのだった。




「さて、ここがローライズ峠ね。」
「麓だけどね。」

ようやくローライズ峠に着いた。
回りを見ると、小さな町がある。

「アリア。あそこよ。きっと。」
「そのようね。行きましょう。」

町の一つに向かったアリアスとルディア。
その町で、彼女らは熱烈な歓迎を受けた。







「えっと、とりあえず、連続発火事件の事、聞かせてもらえません?」

町で熱烈歓迎を受けた二人は、もてなされた食べ物や差し出された調度品を前にして、たじろいだ。

アリアスのその言葉で、ようやく事件の詳細を聞けそうだった。

一人の年嵩の女性が口を開いた。

「調度、二、三日前の事です。いつものように仕事を済ませた私が家へ帰ると、いきなり家に火が着いたんです。
自然に起きたものより、ずっと火の回りが速くて。
どうする事も出来ず五分後には、家は全焼しました。」

どうやら彼女は、一番最初の被害者だったようだ。
「幸い、他の住人の家には燃え移らなかったのですが。」

壮年の男性がそう言った。
風貌からして町長であることが知れる。


「そちらの女性は、今どちらに?」
「私の家に。」


ルディアの問いに、
答えたのは、若い女性。
年嵩の女性と顔の面立ちが似ている。
おそらく血縁関係にあるだろう。

「その後も、次々に被害にあった人が出てきて、今じゃ、一日に一回は被害が出ます。」
「しかし、こちらの住宅は、石材に見えますが。」
「それが問題なのです。この辺は、山火事に備え特殊な石材で住宅を作っております。しかし、それが燃える火ができたと言うことは、精霊様に何かあったのではないかと思うのです。」


精霊契約士は、精霊が関わっていそうな事件を解決する役目を持つ。
だが、賃金が必要。


「しかし、我々には賃金を用意できる程ではありませぬ。」
「精霊契約士の雇用料は高いですしね。」

悲痛な声をあげる町長の背を擦りながら、アリアスは苦笑いで答えた。

「そんな時、無償で事件を解決して下さる宮廷精霊契約士がいると言う話を受けまして、貴女方に依頼をしました次第。
何卒、よろしくお願い致しますぞ。」


賃金などに興味のないアリアスとルディアは、無償で精霊契約士の仕事をしていた。それが、瞬く間に広がり今では国中に名が知れている。


「アリア様。ルティ様。どうか、どうか、私共の安息を取り戻して下され。」
「お任せ下さい。きっと解決してみせますよ。」

ルディアが笑って言った。


彼女達は、契約士の仕事をするとき、アリア、ルティと名乗った。

別に、家名さえ言わなければ、本名のアリアスとルディアの名を使ってもよかった。

ただでさえ、レンジェクト王女のファーストネームを知るものは極限られている。

国民は、アリアスの事をフィティーナ王女、ルディアをティルード王女とよんだ。

だから、別に偽名を使う必要は全くないのだが、最終的な理由は彼女達が面白いから、だそうだ。




「さて、大体の事は分かったわ。」
「突然の発火ってことは、炎の精霊関係ね。」
『そうなると炎の精霊王は、消失事件の際、どなたかに助けられているはずです。』

町民から話を受けた後、とった宿で話しあった。


「わかった事は、事件の一連の詳細。この辺の家はそう簡単には燃えない事。」
「そして、炎は特殊なものではないかと言う仮説。」


アリアスが紙に書き出していったものを順番に読んでいく。


「一日に一回は事件が起きるとも言っていたわ。」
「実際の現場に居合わせなきゃ、精霊がいるかどうかも分からないもんねぇ。」


二人してほぅと溜め息を吐くが、どこか和んだような様子だ。







そんな折、事件は起きた。






アリアスとルディアは、伏せていた瞳をぱちっと開く。
違う色合いの瞳が、意味深に細められる。

「アリア。」
「えぇ。分かってるわ。ルティ。」


「「精霊が動いた。」」


おなじ言葉を紡ぎだすと、勢いよく立ち上がり、順番に宿の窓から飛び降りる。
地面に足を着けると、常人にはあり得ないスピードで街を走り抜ける。


「スィリ。」
『何でしょう?』

名を呼ばれたスィリーセイが音も無く現れると、厳しい声音でルディアは告げる。


「精霊が動いたわ。多分……炎のね。」
『!?』


「レーン。スィリと一緒に先に行きなさい。」
『えぇ。』

セイレーンはスィリーセイと共に、姿を消す。

残った二人は、スピードを緩めることなく走り続ける。



精霊が動く。それすなわち、契約士が精霊を使った事を意味する。

精霊自体が行動を起こすのではなく、契約士が精霊を動かす事で起きる不思議な違和感だと、契約士は言う。


そして、契約士はそれを感じとるのに長ける者が多い。
逆に精霊は自分の力と交ざり、確実にその違和感を捉えられない。


中には、精霊の力を悪用するものもいる。
それを阻止するため、違和感を捉える契約士と契約を交わす精霊もいると言う。




アリアスとルディアが着いたのは、ある一軒の家。
白い壁に、綺麗な花が植えられている家。
しかし、それは昼までの事。
今は見る影もなく炎上している。



「助けて誰か!
助けてよおぉ!!!」

悲痛に叫ぶ女性の声が聞こえる。
それは、昼に話を聞いた若い女性で、その女性の傍らには苦しそうに呻く、年嵩の女性。
こちらもまた、一番最初の被害者だと話を聞いた女性だった。

若い女性は回りに集まる町人にすがり付き、嘆くようにして叫び助けを請っている。


「スィリーセイ!!!」
『承知しております。我が力、お貸ししましょう。水王 ルディア!!』


ルディアがスィリーセイの名を叫ぶと、姿は見えないまま返事がルディアの耳に届く。


「我は、水精霊王 スィリーセイと契約せし者。清廉なる水の流れ。その力、我に貸し与えん!我が名は、水王 ルディア!!!」


スィリーセイの了承を受けたルディアは早口に言葉を唱える。

言葉と共にルディアの手より放たれた濁流は、一軒の家に向かい迸る。




あと少しで、全焼するところだった家は、未だかろうじてではあるが、形を残していた。

アリアスもルディアも、常人にはあり得ないスピードで走り抜けてここまで来たのだから、精霊の動きを最初に感知したときたから、時間は立っていないはずだ。

それを考えると、凄まじい速さで炎が回ったことになる。
精霊の動きの根元はここであったから、精霊による発火である事は、まず間違いない。


そう考えを巡らしていたルディアは、物陰に人の動く気配を感じて、その形のいい眉を寄せた。



「お婆さん!大丈夫ですか!?」

はっと気付くと、前方でアリアスが、倒れた年嵩の女性を助け起こしている。
今にも叫んでしまいそうな若い女性を宥めながらも、年嵩の女性の手当てをしているアリアスを見て、つくづく器用な姉だとルディアは感心する。


「ルティ!傷の手当てを!思ったより火傷が酷いわ。」
再び、思案に陥ったルディアを戻したのは、アリアスの声だった。

「分かった!今いくわ。」

そう行って、普通のスピードで近寄った。



そもそも傷の手当てや回復は、ルディアが契約する水精霊の本分だ。
今回は炎が相手だったため、消火も相性のいいルディアがやったが、実際、アリアスとルディアの役目は逆である。


「水精霊よ。清廉なる流れを以て、彼の者に流麗の癒しを与えたまえ。」

年嵩の女性に近寄ったルディアは、そっと呟いて、目を開けた年嵩の女性に微笑むと、喜色を浮かべる人々の輪を抜けた。


今は気配のしない暗闇に、眉をひそめる。

「あぁ。ありがとうございます。契約士様。
このご恩は、一生忘れません。」

歓喜に震える女性の手を取って、ちょっと困った顔をしたアリアスは、双子の妹に眼を向ける。

小さく溜め息を吐いて、尚もお礼をいい続ける女性に別れを言って、ルディアの元に歩み寄った。
すっかり元気になった様子の年嵩の女性もほっとしたように笑っている。
このまま街は、お祭り騒ぎに持ち込まれそうだった。




「ルディア。」
「何?アリアス。」

街の騒ぎから離れて、珍しく本名で呼んだアリアスに、自分も同じく本名で返事を返した。


「何かいた?」
「さっきから、ざわついてる。」

何がとは言わない。
おそらく、アリアスも気づいているだろうから。

「そうね。特に、水と風と……後、緑かしら。」


ルディアは言葉も無く頷いた。
それらは皆、精霊の種類であり、良くも悪くも炎の精霊に関わりを持つ種族である。

一つ嘆息が聞こえる。
「まさか、《神言葉》まで使うとは思わなかったわ。」
「使わざるを得なかったでしょう?」

アリアスの嘆息に次いで話された言葉に、ルディアはさして驚いた風もなく答えた。

「《神言葉》は精霊を使役する上で絶対な力を発揮する。普通の精霊なら、《神言葉》を使うまでもなかったはずよ。」


咎めるように発せられた辛辣な言葉に、今度はルディアが嘆息する。

「気付かなかった?普通の精霊力じゃなかったわ。あの炎。」
「生憎、私は貴女ほど精霊力に敏感じゃあないから。」

肩を竦めて見せたアリアスにルディアは苦笑を溢し、再び今は気配の無い闇に視線を移した。

それに追随するようにアリアスも視線を闇に移す。


どんなに目を凝らしても、姿は認められない。














《神言葉》

それは、契約士の絶対なる行使の力。

それに命令されれば、精霊は逆らえない。

自らの名を媒介とし、精霊力を行使する。
故に、人体の影響が凄まじい。
その力の使い方を誤れば、人はやがて崩壊する。



古来、神より受けたと言われている力である。





精霊史 第一章 第二節
「神言葉」

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