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精霊輪舞〜姫君見聞録〜
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「これは精霊のフーガ、と呼ばれる道具だ。霊具と言うよりは魔具に近い。それなりの器用さと知識があれば誰でも作れる」

顔と同じ高さまで持ち上げたそれを、わざと揺らす。
チャリ、と軽い金属音と共にペンダントトップのモチーフが揺れた。

「見たことの無い紋様だね」

トップにあるモチーフは、ごく簡単そうな、直線を組み合わせたような紋様だった。
紋様の知識はアリアにとっては得意分野だが、同じく首をかしげているのを見ると知らないようだ。

「まぁそうだろうな。これが考え出されたのはごく最近だ。歴史書に載るような時は経っていない。せいぜい十年ってとこか」
「これが、どういう役割をするのです?」

知識欲の旺盛なアリアは既にフーガをいじくり回している。
集中しているのかいっさい周りが目に入っていない。

「おいおい、お前、一番最初に何で俺に付いてきたんだ?」

大袈裟に肩をすくめながら、苦笑いでアリアの頭を撫でた。
すぐに叩き落とされ、再び彼は苦笑いを溢す。

「キルの気配を感じ取れなかった。その理由に、精霊のフーガを挙げただろう。教えてやる、つったから来たんだろ?」

ま、妹君の騒動でうやむやになったけどな、と、意地の悪い笑みをルティに向けた。
しかし彼女は見つめ返しにっこり微笑み返すだけだ。

「ルティにそういう話し方は通用しませんよ。確かにすっかり忘れていました」
「だろうな。俺もだ」
「お互い様じゃないですか!」
「あぁ。お揃いだな」
「何がですか!」

微妙な理由で言い合いを始める二人に、残された方は目を合わせて小さく微笑んだ。
そしてそちらは放っておいて、本題を勝手に話始めた。

「精霊のフーガは、精霊の気配を隠す。効果に大小はあるけど。ハルトも持ってるしな」
「それで、残った被災地とどういう関係があるの?」

未だにジークは地図を眺めている。
既に冷めた紅茶を一気に流し込んだ。

「残りを繋ぐと、フーガの紋様とまったく同じになるんだ」

いつのまにか言い合いを止めたヴィオンが、横からそう言ってきた。
フーガを地図の隣に置き、地図の残りの印を青いペンでなぞる。

「あ、ホントだ」
「でも、精霊紋様と同じように書いて効果があるものなんですか?それに、何の意味があると言うんです」

描かれたものを眺め、本当だ、と感嘆を漏らすルティ。
眺めた後にすぐに疑問や問題点を口に出してくるアリア。
双子だと言うのによくまぁ、ここまで性格が違うものだ。

「効果はある。精霊を隠すんじゃなく、力を隠すもんだから、使われた力、使われそうになってる力も隠れるしな。それに重要なのはこの紋様自体だ。別にアクセサリーにする必要もない」
「じゃあ、何の意味があるの?」

ルティが聞いた。素直な分、質問の内容が簡潔ではっきりしている。

「例えば、な。お前たちの言うように、ハルトが理性が無くなっているほど狂気に犯されているなら、恐らくこれは描けない。覚えてもいないだろうな。単純だが、これは強く人間と共にある精霊しか知らないから。村や町を発火してまわるような奴が、そうだとは言えないだろう?」

表情が変わらず、ひどく傷心した様子のジークを前にしても、辛辣な物言いは変わらない。
ルティが飛ばした「もう少し言い方ないの?」と言うような視線も完全に無視した。

「が、理性が残ってるなら別だ。誰かに気づいてもらおうとしたか、あるいは様変わりした自分を見せたくなかったのか。いずれにせよ、
理性が無くなってんなら、最強紋様を使うために、三十も余らせたりしないだろ」

アリアの表情が思案に染まる。
確かに可能性のない線ではない。
狂気で理性のない状態なら、わざわざ自分のやりたいことを隠すわけがない。
もし本当にこの説が正しいなら、精霊を消さずとも止めることが可能だ。
だが、またそこにも別の可能性がある。

「誰かに命令されて、自分の計画を悟らせないためだとしたら?」
「そんときはそんとき。咎められるのがこいつじゃなく、その誰かになるだけだ」

ヴィオンの顔に驚くほど清々しい笑みが浮かぶ。
相方を助けられる可能性を見つけて嬉しいのか、機嫌が良さげだ。

そのまま、紅茶をあおり、小屋の中に戻ろうとした。
それを慌ててアリアが追いかける。

「ちょ、ちょっと!まだ問題は……!」

近くでいい募ろうとしたアリアの口を、ヴィオンの人差し指が遮った。
静かに、と言うように、自らの唇にそれを当てて潜めた声で囁いた。

「少し、黙って。確かに問題はあるが、希望を与えたままにしないと、あいつが保たない」

いいね?、と柔らかい声で念を押す。
あまり知らない声質なので、アリアは驚いて反射的に頷いた。
ついで、顔が近いことに気付いて顔を赤らめる。

「ち、近いです!」
「ん?あぁ、悪いな」

アリアは押し返したが、ヴィオンはそれすら気に止めないように、さらに腰を抱いた。
突然引かれた体に抵抗も忘れる。

「なんでもっと近づくんですか!」
「反応が初々しくてつい。……ぃった!」

パカンッ、と頭を拳で殴られ、ヴィオンはしぶしぶ腕を戻した。
解放されてから仁王立ちでこちらを見上げるアリアに微苦笑が漏れる。
実際はほとんど痛くはないが、少々大袈裟にしておく。

「ま、あいつらは二人っきりにしてやろう。ジークと仲良いのは妹の方だろ?」

腰を抱いてアリアも小屋に連れ込んだため、外のテーブルにいるのはジークとルティだ。
窓からこっそり除きながら、二人はちょっと仕方なさげに、楽しそうに笑った。

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