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精霊輪舞〜姫君見聞録〜
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「神言葉って……なんだ?」

その言葉に、姫君たちの動きが一瞬止まる。

「ジーク、知らないの?」
「ヴィオン、貴方は?」

小さな咳払いのあと、二人はほとんど同時にそう聞いた。

「生憎、俺も知らん。なんだそれは」

教えてもらう側の態度じゃないでしょう、とアリアが憤慨する。
それに合わせてヴィオンが煽るので、アリアが返す前にルティが素早く話を切り替えた。
さすが姉の扱いに長けている。

「例えば、私達が精霊にお願いして、彼女たちが力を使うにも、普通なら契約精霊でさえ拒否することが出来るでしょ。無理矢理、契約士が言葉を唱えても、得られる力なんてない。精霊が引き出そうとしてくれないもの」

ルティが説明しだすと、アリアは大人しく反論を諦めて説明にまわった。
ルティの思惑通りである。

「けれど神言葉で命令すれば、精霊に拒否権はありません。仮にお願いする段階で拒否されたとしても、神言葉を唱えれば力を引き出せます。まぁその場合、恐らくその精霊種と決別することになるでしょうけどね」

「神言葉の恐ろしいところは、契約精霊以外にも使えるってことだよ。より強い力を、より強い強制力で、より強い制御でってなると使いたくなるのも分かるけど。絶対おすすめしないよ。私も倒れたもん」

アリアが目の前の彼らに捕らわれたとき、ルティは契約精霊以外の力を二つ、神言葉で行使した。
疲労や慣れない力に晒される体はそう長くは保たない。

「その神言葉があれば、ハルトにも命令出来るのか」

ヴィオンの言葉は別の可能性を孕んでいた。
もしレーンハルトが誰かの神言葉で強制的に最強紋様を書かされているなら、それはその人間の罪に他ならない。
当然、ジークの罪ではなく、その人間を取り押さえれば一先ず大災害は免れるだろう。

「無いとは言い切れません。ですが、狂気にある精霊に命令したことはありませんし、出来るとも思えません。そんなことをして、人間の方が生きていられるかも定かではない」

アリアはヴィオンが示唆する可能性を先に否定した。
言わんとする事は分かっている、と言うことだろう。

「当面は、狂気にあるレーンハルトが、自ら最強紋様を形作ろうとしている、と見ておきましょう」
「他者の介入の可能性は低いか」

小さく聞こえた舌打ちは、忌々しげに吐き出された言葉をさらに黒く彩った。
いつのまにか食事の手は止まり、和やかさすらあった食卓は影も形もない。

「なぁ、この地図の最強紋様以外のところ、これはなんの意味もねぇのかな」

不意に黙りっぱなしだったジークが溢した。

これまでに被害にあった町や村は現時点でぴったり三十箇所。
うち十五は最強紋様を作るため通っている。
真実は分からないが、当面の判断だ。

残り十五箇所を誤差にするにしても、些か多すぎるだろう。
まだ何か隠されているのか、とジークはボーッとしながらそれをなぞった。

珍しくも無表情でいるので、ヴィオンは少々心配になって相棒の顔を見た。
次いで、その地図にも視線をやった。

「……これは、一種の解決の糸口かもしれないな」

ヴィオンがその美貌にニヒルな笑みを浮かべるのを、ジークも背後で感じ取った。
一瞬、目を見開いたと思えば、彼はからりと小さく笑った。

「どうしたんです、何か分かったんですか」
「解決の糸口って何?!」

二人の姫が詰め寄るなか、ヴィオンは落ち着き払って自らの契約精霊を呼んだ。

「キル、ちょっと戻れ」
『何か。ヴィオン』

重い湿気を孕んだ空気と共に、ヴィオンの契約精霊、雷精霊王キルフェヴォルトが姿を見せた。
気配を感じなかったので精霊界の方に戻っていたのだろう。

「フーガを貸してみろ」

キルフェヴォルトは心得たようにコクリと頷いたが、アリアとルティにはさっぱりだ。
精霊が、首に掛けていたペンダントを外してヴィオンの手に落とすのをただ凝視していた。


「それが、フーガ、ですか?」

アリアが聞くのに合わせて、大仰にヴィオンは頷いた。

「先ほど、姫君達が神言葉についてご教授してくれたが、今度は俺の授業だな」

意味深に深まった笑みと共に、キルフェヴォルトから受け取ったペンダントを掲げて見せた。

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