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精霊輪舞〜姫君見聞録〜
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「あ、ジーク!帰ってきたよ」
「おっ、マジか!あいつらちょっとおせぇぞー」

すこしばかりお昼ご飯が冷めてしまったくらいで、ルティとジークのもとにアリアとヴィオンが戻ってきた。

「おーい、アリアー!」

元気よくルティがアリアに駆け寄っていく。
気付いたアリアもルティの側に走っていった。


「おかえりーアリア!」
「ただいまルティ」

ルティは思ったよりアリアの機嫌が良いことに驚いた。
行きはヴィオンと口喧嘩をしながら進んでいたと言うのに、帰りはそんなこともないようだった。
彼との会話はないが、リラックスしたような表情をしている。
共にいるうちに何かあったのだろうか。

アリアとルティがそうして再会しているうちに、ヴィオンはとっととジークの作っていたものを眺めはじめた。

「おう、おかえり。てか何だ、その格好」
「ただいま。組合に行ったらついでに外交させられたんだよ」
「それがお前の仕事だろが」
「メルラにも言われた」

そんな気兼ねしない会話がされている。
言いながらも、二人が帰ってきたので皿やスプーンの準備をしはじめた。

「アリア、お昼ご飯作ったの!」

ルティはアリアの手を引き、簡素なテーブルに導いた。木を削ったコップにスィリーセイが紅茶を注いでまわる。
人と食べ物と飲み物が揃って、ようやく食卓が完成した。

「どうだった、何か見つけたか」

最初に問いかけたのはヴィオンだった。
器用にスプーンで果物を切り分けている。

「収穫ってほどのもんは何もなかった。けど、何もなかったからこそ分かったもんはあった」

ジークは同じようにスプーンをナイフにしたりフォークにしたり器用に食事をしながら答えた。

それぞれ傍らにはアリアとルティもいたが、こちらはもとから食べやすいようにカットされたものを口にしている。
男二人の配慮によるものだろう。

「つまり、どういうことですか?」
「聞こう。話してみろ」

聞く姿勢を取ったアリアとヴィオンに、果物を飲み込んでから、ルティも一度スプーンを置いた。

「普通、契約者が契約精霊の気配を読み取れないなんてこと起きないよね。もちろんジークの能力が衰えた訳じゃない。そうなると、残された可能性はとても少ないと思わない?」
「俺の契約精霊、レーンハルトが自ら姿を消して、故意に気配を覚らせないようにしている可能性が一番高いと思うんだ」
「その場合の理由なんだけど、これもまた、残された可能性は多くない。そもそも今回みたいな事案なんて、そうそうないから当然だけど」


二人は自分達で考えた可能性を説明していった。
もともと頭脳労働タイプではない二人だが、どうやら無視できない可能性も多いようだ。

「成る程。辻褄は合う。ハルトが狂気に殺られてる、ね。確かに状況をみればそれが一番有力だろうな」
「けれど、そう簡単に炎精霊がやられるかしら。力の強い種だけれど、自らの力の制御には長けているはずでしょう。ましてや炎精霊王が」

最後の言葉に驚いたのはジークだった。
彼女にはまだ自分の契約精霊が炎精霊王だとは伝えていないはずだ。

「何を考えているのか大体分かりますが、私に聞きたいことがあるならどうぞ。ジークさん」

「なんで、俺の精霊の事……」
「先程自分でレーンハルトと呼んだじゃないですか。その名を持つ精霊は彼しかいません」
「あ、そうか」

アリアにため息を吐かれ、隣のルティはクスクス笑っている。
相棒だけがいつものように冷えた目線を送っていた。それもそれで心が痛むものがあるが。

「後は事実を確かめるだけなんだけど、こればっかはなぁ」

ひとつ咳払いをしてからそういうと、改めて問題を考え始めた。
ようやく笑いをおさめたルティも、その話題に乗る。

「仮に狂気だったとして、何が原因なのか。有害物質の話題は聞かない」

稀に精霊が暴走を起こす事があるが、人間が開発や生活を行う上で排出される物質が大概の原因だ。
過去の人々がそういった事が起きないよう、対策を行っていった上で共存と言う現在がある。

今でも影響を与える事が分かれば国に報告される。

「せめてどこにいるのか分かればなぁ」
「闇雲に探しても意味がないだろう。関係のありそうな場所を計画的に回れ」
「関係ありそうな場所っていってもよ」

いつのまにか食事を再開したヴィオンがパンのかけらを飲み込んで意味深に笑った。

「なんのために姉姫が城下に調査に出たと思ってる」
「ルティと私が追っていた事件と、関連性は強そうですよ。やっぱり」

言いながらアリアはギルドでもらった書類をテーブルに並べた。
これまでに発火事件に襲われた村や町のリスト。事件の概要と、考察も書かれている。
また地図に具体的な場所も記載されていた。

「私とルティが依頼を受けたのはこの峠の下の村ですが、それ以外にもいくつか村や町に被害が出てます。こちらに地図があります」

アリアが示した地図にはいくつか印がつけられていた。その隣に日付も添えられている。
王都を中心にして、満遍なく広がっていた。

「組合で頂きました。まだ調査は始めていないそうですが、ジークさんの精霊と関連を示唆する人は出てきてるようで」
「結構多いな」
「どうする。これが全てハルトの暴走となると、お前も責任から逃れられない。庇いはするが、流石に自信はないぞ」

ヴィオンが厳しい面持ちで言うと、苦々しくジークも頷いた。

「いずれにせよ、レーンハルトを見つけない限りは真実は分からない。何か手がかりあればいいけど」

ルティが熱心に地図を覗き、さしたる意味もなく印をたどり始めた。
何度か行ったり来たりを繰返し、法則性を探すように指でそれらを繋ぎ始める。

「……アリア。これ、この紋様。見覚えない?ペンあるかな」
「……嘘、でも、そんな」

ルティの辿った軌跡を追い、アリアは愕然とした表情になった。
気づいたヴィオンが、呆けたその頬を軽く叩いた。

「おい、どうした。何があった」

我に返ったアリアは、ゆっくりとジークに向き直り、静かな声で言った。

「どうやら、この事件はレーンハルトが引き起こしたものと見て、間違いないようです」
「狂気か正気かは分からない。けど、これを覚えてるってことは力を使える状態ではあるみたい」

赤いペンで地図に軌跡を描いたルティは、それを見せて示した。
被害のあった場所を日付が新しい順に結ぶと、二人に馴染みのある紋様が浮かび上がる。

「どういうことだよ。俺達、こんなの見たことないけど」
「姫君たち、分かりやすいように説明してくれ」

アリアが別の紙にあたらしくその紋様を書き写し、それを改めて二人に見せた。

「精霊達が使う力の種類を見分けるのには、紋様を見る事が必要になります。レーン、何でもいいわ、何か使ってみて」

アリアがレーンに向かって話しかけると微かな波の音とともに、姿を表した。

『分かったわ。何でもいいのね』
「出きれば分かりやすいほうがいいわ」
『了解』

言ってレーンは右手を掲げ、手のひらで数回宙をかき混ぜた。
瞬間、彼女の手の回りに濃い青の紋様が浮かび上がる。

「今のは彼女の眷族を呼び寄せる術。召喚の力に分類されるものです」

アリアが言う通り、レーンの手のひらに生きた貝が乗っていた。
海に生きるものはすべて彼女の眷族だ。

「精霊が力を使う瞬間浮かび上がる紋様に種類があり、それによって見分けがつくって訳か」

ヴィオンが納得したように呟くと、頷いて再び書き写した紋様を眺めた。

「この紋様は間違いなく炎精霊のものです。それも、最大の力を呼び出すもの」
「あのねジーク、これ、使えるのは精霊王だけなんだ。当然別の種の紋様は使えないし、この炎精霊の最強紋様を使えるのはこの世にレーンハルトだけなの」

ルティが辿る指は途中で止まった。
地図に描かれた軌跡は未完成のまま。
後一つ、繋がれていない軌跡があった。

「ここは?紋様とやらは完成してないのか?」

目ざとく、ヴィオンがそこを指し示す。
繋がりそうな場所は南の霊峰フレイヤの頂上辺り。

「たぶんここが最後だよ。ここで紋様が完成する」
「完成すると、どうなるんだ?!」

ジークは気が気でないようだった。
ルティの胸ぐらをつかみかかるような勢いだ。
落ち着けとヴィオンに制される。

「私たちがこの力を使えと命令することは出来ません。これは精霊の意思によるもの。それだけでも重みが分かるでしょう。被害で言えば、王都一つは軽く吹き飛ぶ。何せ、一番破壊力の強い種ですから。今回の場合、レーンハルトは理性すら失っている可能性が高い」

答えたのはアリアだった。
ルティの方はジークに詰め寄られたせいか少々萎縮してしまっている。
すまなそうにジークが頭を撫でてやった。

「まぁ、命令出来たとしても、神言葉レベルでしょう。乱発できるものではありません」
「神言葉に精霊は逆らえない。最強紋様の力なんて、出来たとしても使うものじゃないよ」

アリアとルティの似たような動作に少々戸惑いながら、ジークが遠慮がちに声を上げた。

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