神子色流れ
桃の国 始
そして桃凜は、刀を振り落とした。
ザンッ
無惨な音が響いた。
次いで鳴るのは、ゴトリと言うような鈍い音の筈が、聞こえたのは軽い布が落ちるような音だった。
「これで貴女は、一度死んだ。」
刀を鞘に戻しながら桃凜は言う。
彼女は紫花の髪を切ったのだ。
長かったそれは緩く結ばれたまま形を保って床に落ちた。
「女王陛下……?」
「今、ここにいる貴女は、運命の悪戯で暗殺の技術を身に着けてしまって、ある女の命を刈るように命じられた。貴女は反対したが家族を楯に取られてやむを得ず。しかしそれは、その女の護衛により阻まれ、今に至る。」
「じょ、女王陛下?」
「そして私は、その哀れな貴女の話を聞き、ある決意をする。」
「あ、ある決意…?」
「我、朱鸞国妃、桃凜は、汝を女麗院衆、女官室長、筆頭女官に命ずる。我は、汝の哀れなるその人生を変えて見せよう。」
何故か悪戯好きの子供のような顔をする桃凜は、ふっと、紫花に視線を向けた。
「不服はあるか?彩綾 紫花よ。」
「………。」
空いた口が塞がらないを見事体言する紫花。
状況を理解出来ず、切られた髪と桃凜を見比べるだけだった。
「……不服はあるか?!」
いきなり強い語調で語りかけた桃凜に驚き、紫花は反射的に、頷いた。
「よし。それじゃあ、頼むわよ。紫花!」
「……畏まりました。慎んでお受け致しましょう。」
ようやく状況を理解した彼女は、完璧な女官の礼をする。
本日付けで筆頭女官となった紫花は、静かに笑った。
だが直ぐに、彼女は重々しく口を開いた。
「あの、女王陛下……?」
「何?」
「一つ、お願い、と申しますか、提案が御座います。」
「提案?何の?」
「どうか、直ぐに各国の国妃様に、私の事と皆様方に危険を知らせて戴きたい。」
既に直立する彼女は、筆頭女官の顔と暗殺者の顔を持っていた。
「どういうこと?」
「私以外にも、各国に送り込まれた暗殺者はいます。私は今夜動きましたが、他の皆様も恐らく、遠からず動かれるでしょう。故に遠からず、各国妃様に危険が迫ります。」
「……分かったわ。貴女を信じましょう。」
桃凜は彼女の言葉に、神妙に頷いた。
[*前へ]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!