[携帯モード] [URL送信]

神子色流れ
黒の国



「黒紗様?いらっしゃいます?」


部屋の扉を開け、遠慮がちなか細い声で、刻永は聞いた。


筆頭女官、刻永。
若くして筆頭女官に収まる強者である。

彼女の探し人は、黒紗。自分の主。


その様子から、それなりの時間、探していたようだ。

「刻永?」

開いた扉の奥から声がした。
よく知る主の声。


「黒紗様っ!こちらにいらっしゃったんですね!」

扉を蹴破る勢いで、彼女は中に入った。

その部屋は書庫。
確かに、彼女は書庫にいることが多かったが、夜中に来ているとは思わなかった。

だから、探す時も後回しにしたのだが。

予想外としか言いようがない。


「寝室にいらっしゃらないから驚きましたよ。」

「ごめん。」

「いえ、謝っていただく程のことでは。で、何をしてらしたんです?」

素直に謝られて、刻永は慌てて言葉を返す。居たたまれなくなって、話題を反らした。


「ちょっと、知り合いが……。」

今度は、黒紗が言いにくそうにしている。
適当に言葉を濁したが、通じるだろうか。

「お知り合い…ですか?」

「う、うん。昔に良くしてくれたの。」

ここは嘘じゃない。大丈夫。
「そうなんですか。よかったですね。」

「うん。」

通じたらしい。
なんとか誤魔化せた。

黒紗は安堵の息を思わず漏らす。
刻永はそれ以上、詮索する事はなく、扉に向かって戻っていった。


「この城の者って刻永の事だったのね。ねぇ、零銀。」


再び一人になった部屋で、先程の青年の名を呼ぶ。
帰ると言ったが、気配が近くにある。
恐らくいるだろう。
呼べば出てくるとふんで、かまをかけてみた。

やはり、いた。
出てきたのはかわいらしい白猫。

これが、零銀のもう一つの姿。



黒紗は白猫の零銀を抱えると、困ったように鳴く零銀を無視して意気揚々と刻永の後を追った。



また一匹、飼う猫が増えた。


[*前へ]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!