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神子色流れ
〜第二章 世界は動く〜

古い時代、幻想時代にそこに見える五色の少女の影は世界の繁栄に手を貸した。

世界は彼女等を黒髪五色神子と呼び、彼女等が歩いた人生の物語を、黒髪五色神子達の歩みの物語として後世に語り継いだ。




「〜第二章 世界は動く〜」







千和千鳥の商業都市。
火の鳥の名を持つ国、朱鸞国を治める国妃桃凜は、朱鸞国都、花鳥に存在する朱華城で、憂いを帯びた顔で国を見おろしていた。
その表情はおよそ十六のものとは思えない。


「世界は動く……か」

小さな呟き。
窓際の出窓といえど、さほど風が強くないので、はっきりと聞こえる。

「女王陛下?いかがなされました?」

それを耳に入れた桃凜の筆頭女官、紫花は怪訝な顔で尋ねた。
女王陛下と言う呼称を使うのは、女官の身にある者だけだ。

「ねぇ、紫花。世界はどう動くのでしょうね」
「は?いえ、私には分かりかねます」
「誰でも……そうよね」
「……?」

桃凜の視線の先には、広大な大地を有する鏡華帝国だった。






ここ、千和千鳥の大地は数々の神々が信じられている。
その空気を受けて、天候も変わる。
神事において、神子達はこういったものを司る。

「暗雲が……」

その神事において、緑神子と言う称号を預かるのは、柳弦国妃緑流だ。

彼女は遥か東に立ち込める暗雲を見てとり、その危機を感じ取った。

「珍しいっすね。この時期に暗雲なんて。雨季は過ぎた筈ですけどねぇ。何か起こるんですかね」

傍らの近衛騎士団長、双源は軽い言いぐさで自分の仕える王に言った。
口調とは裏腹に、瞳には懸念の色が含まれているが、緑流は気がつかない。

「馬鹿。縁起でもないこと言うな。言霊が発動したらどうするつもりだ」
「大丈夫だと思いますけどねー。ま、気を付けまーす」

緑流の言う言霊は、言ったことが本当になると言われている一種の呪のようなものだ。
古来より千和千鳥に宿ると言われている。
現在も力は脈々と受け継がれているらしいが、それは極小さな力らしく、あまり効果はない。
それでも緑流のように古来の力を信じる者もいるのだ。

「今から対策をこうじておくか。双源」

国妃としての責任感に溢れる緑流は、すぐさま行動を開始した。
「はいはい、議会の召集ですか?」
「あぁ、頼んだ」
「へ〜い」

ふざけた様でも、彼は頼りになる存在だ。
一刻と経たずに、議会の召集は終了した。







各国に産業のある千和千鳥では、それぞれが他の国の産業を補っている。
朱鸞国は商業。柳弦国は武術。それと同じように、学業の都として栄えたのが月翔国だ。

「大変ですわね」

美しく、そして優しい容貌の国妃は、腰まである黒髪を背に流し、ひどく落ち着いた口調で暗雲を眺めた。
彼女は月翔国妃、名は凰蘭と言った。

「この時期にあんな暗雲が立ち込めるなんて」

軽く目を細めて、柔らかな微笑を浮かべた。
「うふふっ。世界は動くものですね」

その瞳は単なる楽しみに溢れているわけではなかった。いくぶんか、行き先を憂うような印象を受ける。

凰蘭が一人で無邪気に笑っていると、一人の青年が部屋に入ってきた。それも気配を消して。
だが、凰蘭はさして驚いた風もなく後ろへ振り返った。流れに沿って髪が揺れる。

「雅染、気配を消して部屋に入るのやめてくださいって言ったでしょう?」
「どーしても消してしまうんですよ。姫様が頑張って感じてくださいって僕も言いましたよ」

凰蘭が話す青年の名は黄鈴 雅染。
凰蘭を姫様と呼ぶ雅染は、生まれた時から一緒にいたらしいが、真相は定かではないようだ。

「しょうがないですね」

旧知の仲の雅染に、いつも優しい微笑を浮かべる国妃は珍しく困り顔を見せた。

「しっかし姫様。あの雲なんですか?」
「世界が動くのですよ。偶像の平和から変わるのですよ」

美しく優しい国妃はその日を幸せそうにけれど憂いながら笑って過ごした。
否、彼女が笑わぬ時などないのだ。







「空に暗雲立ち込めしとき、それは始まりの証。千和千鳥が偶像は壊され、新たな時代が作られる……。それが古くから伝わる神書の言葉……」

青色の妃式服に身を包んだ少女とも女性ともとれる、綺麗な者は誰にともなく呟いた。

妃式服は妃千服と同じように国妃しか着ることを許されていない式典用の衣装。
よって、この少女も国妃だ。


ここは青藤国。
水神百泉と言う百の泉がある、神事の都だ。そのお陰もあって、国妃は誰よりも神子らしい神子だ。

国妃の名は、聖薔。黒髪五色神子の中でも最年長だ。

聖薔の言葉は、神を重んじる青藤国での多くの神話の一つにあるものだった。
国柄、神話や伝説の数は群を抜いた。

「偶像は壊され新たな時代が作られる。新しい時代はどんなものでしょう。戦乱の時代か、はたまた平和の時代か。いずれにせよ戦いは避けられないでしょう」

予言じみた言葉と共に、彼女は背後の気配に意識を向けた。

「神子様。祭祀のご準備を……」

聖薔の背後、彼女の近衛騎士団が集結している。
すぐ後ろには実直な立ち姿。
近衛騎士団長であるその立ち姿の青年は玲瓏 嵐華。
背に大きな鎌を背負う痩身且つ長身の体は、威厳だけ持って生まれたような雰囲気だった。
滅多に喋らずただただ忠実に仕事をこなす。

「ごめんなさい、皆さん。少し、席を外してもらえませんか?」

その言葉を聞いて、嵐華は眉をひそめた。
何かいいたげにするが、やはり何も言わない。

「大丈夫ですよ、嵐華。ちゃんと祭祀には間に合わせますから」

嵐華は僅かにうなずいて、近衛騎士団を下がらせた。
何も喋っていないのに、聖薔は何が言いたいのかわかるらしい。

誰もいなくなった盛大な部屋で聖薔は一人。凶兆の暗雲を眺めていた。








平和的且つ温厚な国柄なのが、鉱業を主とする黒海国だ。

その国はその名の通り、海が黒く名産である上質の黒真珠が取れる。
黒真珠は各国に輸出され、国妃達の装飾品に使われている。
また水産業を生業にする漁師が多い為か、辺りには猫がよく見かけられた。

この国の表情の変わらない国妃は最年少だからか、可愛らしいと国民に非常に人気があった。

「今日の式での国妃様はまた一段とお可愛らしくあられましたね」
「えぇ、ホントに。あのあどけなさが残る年齢でこの国を支えていらっしゃるんだから、見事なものですよ」
「あら、国妃様だけでなく近衛騎士団長の楓才 灰菖様もお可愛らしくてよ」

そんなことを上流階級の婦人達は話していた。
国妃のみならず、十五歳の若さで騎士団長を務める楓才 灰菖も人気があったが、彼らはそれを耳にいれないほどに平和に穏やかに過ごしていた。

そんな最中、鏡華帝国の空には、やはりどす黒い暗雲が浮かんでいた。









黄神子と青神子は明るい黄色と美しい青を時代に落とした。
凶兆とされる暗雲は時代にどんな色を落とすのか。



世界は動く
世界は廻る




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