神子色流れ
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後ろに控える女官に指示を告げると、それぞれの客人を部屋に案内し始める。
紫花は部屋の片付けを行ったが、声を掛けられ、振り向いた。
「これは柳弦国妃様。何かございましたか?」
物腰柔らかく紫花が問えば、緑流もそれに返す。
「仕事中に申し訳ない。桃凜は大丈夫だったか?」
「女王陛下、桃凜様でございますか?大事はありません。今は騎士団長殿が看ています。」
「騎士団長殿が?」
意外な名が出たので、思わず声を上げてしまう。
失礼だがとてもじゃないが、看病が出来るような男性には見えない。
「えぇ。ああ見えても彼は、医師としても優秀ですのよ。」
「医師!?彼が?」
「えぇ。騎士団長になられてから、医師としても認められるようになったのですが、我が朱鸞国では、名のある医師になってらっしゃいます。」
少し得意気に話す紫花に頬が緩む。
「それならば、問題はないな。」
「えぇ!全くの無問題ですわ。」
それから緑流は部屋を退室し、用意された客室に入った。
紫花は暫く畳の部屋にいたままで、片付けを続けた。
このときに、彼女を理解する他の人間がいたら、彼女を支える事が出来たのだろうか。
答えは分からない。
果たしてどうなるのだろうか。
美しい月明かりに照らされて、安らぎに目を瞑る朱鸞国女王。
それを優しく見守る赤の騎士。
未だ冷めやらぬ幸せな時間の興奮に身を任せ、風に髪を靡かす柳弦国女王。
小さな笛を幽玄に鳴らす緑の騎士。
冷たい風に、小さな欠伸と、小さなくしゃみをこぼす月翔国女王。
青果を卓上に置き寝台に転がる黄の騎士。
明るい月に琴を鳴らし、唄を詠う青藤国女王。
片足に額を乗せ、聞こえてくる琴の音と美しい声に耳を澄まし微笑む青の騎士。
既に眠そうに目を擦り、布団を被る黒海国女王。
数本の短剣を手入れし、眩しい月に目を細める黒の騎士。
そして五国の女王に仕える侍女。
五国の女王と五国の騎士と五国の侍女。
彼らを取り巻く脆弱な真実と完全な嘘は、時代を担う彼らの枷となるのか。
物語は奈落へ………
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