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散桜花録

刀同士がぶつかり合い、火花を散らす。

『・・・・・・っ!!』

「どうした? あの時に見せた力を見せてみろ」

『あの時って、いつの事かよっ!!』

鍔迫り合いを柚斗は押している。

(ふむ。あれは無意識か)

「お前、女のくせにそんな力があるという事は、もしや紛い物になったか?」

『・・・女かどうかは貴様が知ったことか。ちなみに俺は紛い物になる気はないっ!』

刀が激しくぶつかり合う。

『馬鹿』

相手の刀が飛び、柚斗の剣先が相手の喉元に向けられた。

『今、お前を殺すわけにはいかない。・・・薩摩の者と争ったら新選組に迷惑がかかるからな』

「そうか・・・」

彼は刀を納める。

「俺も薩摩藩に属している者としては、貴様らと面倒な事を起こしたくないのでな・・・・・・」

『ふんっ。てめえは藩に属している事も面倒なんだろ。それじゃ、俺は帰る』

踵を返して立ち去ろうとすると。

「ちょっと待て」

『は? なに−−』

柚斗は振り向きざま、相手の顔が近づいてきて、唇が重なったの感じる。それは一瞬の事だった。

『・・・・・・・・・・・・』

「お前が気に入った」

『・・・・・・・・・・・・か・・・』

「なんだ?」

『この馬鹿野郎っ!! 男同士なのに何しやがるっ!!』

柚斗の平手打ちが見事に相手の頬に決まった。

『俺はてめえみてえな奴はごめんだっ!!』

「名は?」

『人の話、聞いてるのかよ。・・・・・・霞崎 柚斗だ』

ぐちぐち言いながらでも彼は名を答える。

「真の名ではなかろう」

『教えるかっ!!』

そう言って、柚斗は振り向かずに走っていく。

暗くなってきた空はいつしか地面に雨を落とし始めた。

【最低だ・・・】

そんな事思いつつ、あんな事をされても自制心がよく持ったなと思う。もし、本当の敵だったら、本気で斬り殺していた。

茶屋の軒下に見知った姿を見つけ、さっきの事はなかったかのように、その人物に声をかける。

『歳兄ぃ。ごめん、手間取った』

「柚斗。・・・どうした? 顔色が真っ青だぞ。無理してねえか?」

優しく言葉をかけられ、泣きそうになるが、それを堪えて。

『平気だ。夏だから調度良い』

「冷えてるぞ。・・・今、山崎に頼んでここまで誰か傘を持って迎えに来るように言った。平気か?」

『大丈夫・・・・・・』

土方の手が、柚斗の濡れた髪に触れる。

「屯所に戻ったら、間者の事を報告しろ」

『わかった』

「勝手にすることだから気にするなよ」

そっと土方から抱き寄せられた。

『・・・・・・』

【暖かい・・・】

「本格的に降り始めやがったな・・・」

『何処に行くの?』

「傘を借りてきた方がいいかと思って・・・」

『濡れちゃうよ。借りなくても大丈夫だから・・・』

「いや、早く帰らなきゃいけねぇだろ」

『ちょっ−−!!』

雨の中に体をさらした土方の手首を掴む、結果的、二人同時に濡れてしまった。

「馬鹿。なんで雨がひどいのにそんな事をしやがる」

『馬鹿はそっちだ。風邪引くだろ』

更に濡れた前髪をかきあげ、舌打ちをする。

「・・・ったく。お前が不機嫌になってどうする」

このままの姿はさすがにやばいと思い、さっきの軒下に戻った。

『来る奴、大丈夫なのか・・・?』
「さあな。分かるわけねえだろ」

濡れたままの二人は寄り添い合う。


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