散桜花録
肆
刀同士がぶつかり合い、火花を散らす。
『・・・・・・っ!!』
「どうした? あの時に見せた力を見せてみろ」
『あの時って、いつの事かよっ!!』
鍔迫り合いを柚斗は押している。
(ふむ。あれは無意識か)
「お前、女のくせにそんな力があるという事は、もしや紛い物になったか?」
『・・・女かどうかは貴様が知ったことか。ちなみに俺は紛い物になる気はないっ!』
刀が激しくぶつかり合う。
『馬鹿』
相手の刀が飛び、柚斗の剣先が相手の喉元に向けられた。
『今、お前を殺すわけにはいかない。・・・薩摩の者と争ったら新選組に迷惑がかかるからな』
「そうか・・・」
彼は刀を納める。
「俺も薩摩藩に属している者としては、貴様らと面倒な事を起こしたくないのでな・・・・・・」
『ふんっ。てめえは藩に属している事も面倒なんだろ。それじゃ、俺は帰る』
踵を返して立ち去ろうとすると。
「ちょっと待て」
『は? なに−−』
柚斗は振り向きざま、相手の顔が近づいてきて、唇が重なったの感じる。それは一瞬の事だった。
『・・・・・・・・・・・・』
「お前が気に入った」
『・・・・・・・・・・・・か・・・』
「なんだ?」
『この馬鹿野郎っ!! 男同士なのに何しやがるっ!!』
柚斗の平手打ちが見事に相手の頬に決まった。
『俺はてめえみてえな奴はごめんだっ!!』
「名は?」
『人の話、聞いてるのかよ。・・・・・・霞崎 柚斗だ』
ぐちぐち言いながらでも彼は名を答える。
「真の名ではなかろう」
『教えるかっ!!』
そう言って、柚斗は振り向かずに走っていく。
暗くなってきた空はいつしか地面に雨を落とし始めた。
【最低だ・・・】
そんな事思いつつ、あんな事をされても自制心がよく持ったなと思う。もし、本当の敵だったら、本気で斬り殺していた。
茶屋の軒下に見知った姿を見つけ、さっきの事はなかったかのように、その人物に声をかける。
『歳兄ぃ。ごめん、手間取った』
「柚斗。・・・どうした? 顔色が真っ青だぞ。無理してねえか?」
優しく言葉をかけられ、泣きそうになるが、それを堪えて。
『平気だ。夏だから調度良い』
「冷えてるぞ。・・・今、山崎に頼んでここまで誰か傘を持って迎えに来るように言った。平気か?」
『大丈夫・・・・・・』
土方の手が、柚斗の濡れた髪に触れる。
「屯所に戻ったら、間者の事を報告しろ」
『わかった』
「勝手にすることだから気にするなよ」
そっと土方から抱き寄せられた。
『・・・・・・』
【暖かい・・・】
「本格的に降り始めやがったな・・・」
『何処に行くの?』
「傘を借りてきた方がいいかと思って・・・」
『濡れちゃうよ。借りなくても大丈夫だから・・・』
「いや、早く帰らなきゃいけねぇだろ」
『ちょっ−−!!』
雨の中に体をさらした土方の手首を掴む、結果的、二人同時に濡れてしまった。
「馬鹿。なんで雨がひどいのにそんな事をしやがる」
『馬鹿はそっちだ。風邪引くだろ』
更に濡れた前髪をかきあげ、舌打ちをする。
「・・・ったく。お前が不機嫌になってどうする」
このままの姿はさすがにやばいと思い、さっきの軒下に戻った。
『来る奴、大丈夫なのか・・・?』
「さあな。分かるわけねえだろ」
濡れたままの二人は寄り添い合う。
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