散桜花録 肆 柚斗はそう言ったが、土方は別の意味で言ったのだ。 先程の姿は髪が白銀に輝いているように思えた。 「何となくだが、お前が月の姫に見えた」 『洒落か? しかも。俺、かぐや姫かよ』 「ああ、お前はそういうのは似合わないんだったな」 『何せ、新選組で鍛えられたからな』 本当に男っぽくなったと土方は思った。 『山南さん、どうしてる?』 「相変わらず、ぴりぴりしている」 『そっか・・・』 碧<あお>色の瞳が憂えている。 『歳兄ぃ、絶対に山南さんを見捨てないでくれ』 「見捨てるわけないだろ。山南さんはこの新選組に大事な人なんだからな」 『そ、だな。俺達が、山南さんを−−』 言葉がプツリと切れる。そのまま柚斗の体が土方に寄り掛かった。 「おいっ!!」 §-§-§-§-§ 翌日、昨晩の無理が祟ったらしく、熱が上がって布団から起き上がれなかった。 『頭痛い・・・・・・』 「熱が上がったのは、自分のせいだろ」 仕事の合間を縫って、見舞いに来た土方からそう言われ、ため息をついた。 「土方さん。昨夜何かあったんですか?」 なるべくなら千鶴に知ってほしくない。だから柚斗は土方に目だけで言うなと伝える。 「千鶴。今日は柚斗と一緒に寝てやれ」 『ちょっ、何馬鹿な事言ってやがる!! ・・・・・・だいたい、何でそんな話になるんだっ!!』 「そ、そうですっ! どうしてそんな話に−−」 「女のお前なら、蓮華の事がわかってるからだ」 『わけわかんねー』 「あれ? 土方さんじゃなくて、千鶴ちゃんがお世話してるんですか?」 『総兄ぃ!』 「何でここに来たんだ?」 「純粋に柚斗を心配したからですよ」 『そっか・・・・・・。千鶴、悪いけど茶が飲みたいから持ってきてくれるかな?』 「あ、うんっ」 千鶴が厨<くりや>に向かったのを見届け、柚斗は土方に目で、起き上がっていいかと聞く。 「具合はどうなんだ?」 『まし。たぶん、熱はあんまり下がってないと思うけど・・・』 「なら、大人しくそのまま寝てろ」 『・・・・・・。池田屋で捕まった奴らはどうなの?』 「六角獄に幽閉されている」 きっと、拷問させられるだろう。 『大物は釣れなかったか・・・』 「何か大物が関わったりしてたのかな?」 沖田が少し興味を持ったように質問をする。 『・・・・・・桂小五郎。何度か池田屋で姿を見た。あいつも関わっていると思ったんだが・・・・・・外れたようだな』 あの日。亡くなった者、捕縛した者の中にも、桂は見かけなかった。一番考えられるのは、あの時に無事に逃げ出したか。なんの関わりもなかったのか。 「ま、新選組の名が京中に知れ渡った分、いいじゃねえか。桂はまた探し出せばいい」 『・・・そ、だな・・・・・・』 「お茶をお持ちしました」 と、障子の向こうから声が聞こえる。 『入れ』 「失礼します」 [*前へ][次へ#] [戻る] |