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散桜花録

柚斗はそう言ったが、土方は別の意味で言ったのだ。

先程の姿は髪が白銀に輝いているように思えた。

「何となくだが、お前が月の姫に見えた」

『洒落か? しかも。俺、かぐや姫かよ』

「ああ、お前はそういうのは似合わないんだったな」

『何せ、新選組で鍛えられたからな』

本当に男っぽくなったと土方は思った。

『山南さん、どうしてる?』

「相変わらず、ぴりぴりしている」

『そっか・・・』

碧<あお>色の瞳が憂えている。

『歳兄ぃ、絶対に山南さんを見捨てないでくれ』

「見捨てるわけないだろ。山南さんはこの新選組に大事な人なんだからな」

『そ、だな。俺達が、山南さんを−−』

言葉がプツリと切れる。そのまま柚斗の体が土方に寄り掛かった。

「おいっ!!」


§-§-§-§-§


翌日、昨晩の無理が祟ったらしく、熱が上がって布団から起き上がれなかった。

『頭痛い・・・・・・』

「熱が上がったのは、自分のせいだろ」

仕事の合間を縫って、見舞いに来た土方からそう言われ、ため息をついた。

「土方さん。昨夜何かあったんですか?」

なるべくなら千鶴に知ってほしくない。だから柚斗は土方に目だけで言うなと伝える。

「千鶴。今日は柚斗と一緒に寝てやれ」

『ちょっ、何馬鹿な事言ってやがる!! ・・・・・・だいたい、何でそんな話になるんだっ!!』

「そ、そうですっ! どうしてそんな話に−−」

「女のお前なら、蓮華の事がわかってるからだ」

『わけわかんねー』

「あれ? 土方さんじゃなくて、千鶴ちゃんがお世話してるんですか?」

『総兄ぃ!』

「何でここに来たんだ?」

「純粋に柚斗を心配したからですよ」

『そっか・・・・・・。千鶴、悪いけど茶が飲みたいから持ってきてくれるかな?』

「あ、うんっ」

千鶴が厨<くりや>に向かったのを見届け、柚斗は土方に目で、起き上がっていいかと聞く。

「具合はどうなんだ?」

『まし。たぶん、熱はあんまり下がってないと思うけど・・・』

「なら、大人しくそのまま寝てろ」

『・・・・・・。池田屋で捕まった奴らはどうなの?』

「六角獄に幽閉されている」

きっと、拷問させられるだろう。

『大物は釣れなかったか・・・』

「何か大物が関わったりしてたのかな?」

沖田が少し興味を持ったように質問をする。

『・・・・・・桂小五郎。何度か池田屋で姿を見た。あいつも関わっていると思ったんだが・・・・・・外れたようだな』

あの日。亡くなった者、捕縛した者の中にも、桂は見かけなかった。一番考えられるのは、あの時に無事に逃げ出したか。なんの関わりもなかったのか。

「ま、新選組の名が京中に知れ渡った分、いいじゃねえか。桂はまた探し出せばいい」

『・・・そ、だな・・・・・・』

「お茶をお持ちしました」

と、障子の向こうから声が聞こえる。

『入れ』

「失礼します」

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