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ザ ビキニングオブザワールド!
※幼なじみ/俺様×オタク/少々乱暴な表現があります。苦手な方は閲覧をご遠慮ください










         ・・・・
「てかさお前なんであんなんと仲良くしてんの?」


俺は何も言えなかった。多田をぶっ飛ばしそうになる左手を抑えるのに必死だったからだ。

「ま〜確かにある意味可哀想な奴だし構ってやりたくなる気持ちも分かるけどさぁ、お前はどう見てもあっち側の人間じゃねぇべ?」

卑しく笑うニキビ面に、『こんなん』にあんなん言われる筋合いはねぇよと言いそうになる。

「…どーでもいいだろ」

「ちょ冗談じゃんか、な?怒んなって!で、どうするよやっぱり駅前の居酒屋が
「…やっぱ人待たしてるし帰るわ、また明日話そうぜ。じゃ」

俺の言葉に、何が不満なのか、多田は純粋に不思議そうな顔をする。

「お前さ…ほんとなんであんなオタクとつるんで

多田の言葉尻を食うようにガタンと椅子が床に倒れる。心霊現象じゃあるまいし、自然に倒れたんじゃない。俺が勢いよく立ち上がったから倒れたのだ。…思ったより大きな音をたてたのは想定外だったけど。

「帰る」
「じゃ、じゃあな」
「…うん」

お前なんかにあいつがわかってたまるか。

呑み会のセッティングの話で放課後残ってほしいと頼まれたので渋々居残りしたが、やっぱり帰るべきだった。やり場のない苛立ちとやるせなさを抱えたまま、待ち合わせの場所に走る。
あいつの口を黙らせることができたらどんなにいいだろうか。考えても考えても暴力的なやり方しか浮かばなくて、餓鬼臭い自分にまた苛々した


****


図書室は黴臭くて仄かに薄暗い。うちの高校の図書室は豊富な数の蔵書があるから、本を見る奴からしたら居心地のいい場所なのかもしれない。けど俺は残念ながらそんな聡明な人間じゃないので、何回来てもこの殺伐とした空間に慣れることが出来ない。

本棚の迷路を立ち止まることなく突き進むと、本と向き合う場所なのにその義務を放棄して手元のゲームに向き合ってるあいつを見つけた。

近付いていけば、さえない顔がこちらに気付いて、ささやかに微笑む。

「あ、剛、帰る?」

厚治はゲームの電源を切って、のろのろと鞄にしまい始める。鞄のフタを開けたときに見えた、女の子の人形(フィギュアってやつ?)と漫画本にはあえて触れない

「悪い待たせた。行くか」
「いいよいいよ。それより話すんだのか?」
「すませたすませた」
「なんで無駄に棒読みなんだ」
「なんでもねーよ、行くぞ」

さっきのことを思い出してまたムカムカしてきたので、さっさと踵を返して図書室を後にする。
耳を澄ませば、後ろからついてくる足音が聞こえたので密かに胸をなで下ろす。相手が追いつきやすいように、進むスピードを減速すると、猫背気味なあいつが俺の隣に並んだ。

「お前は学校でもゲームか。飽きねーなぁ」
「うん、どうしても早くクリアしたくてさ」

厚治は昔からゲームが好きだ。そしてゲームの他にも、アニメとか漫画とか幅広い範囲の娯楽をカバーしている。俺だって小学生の頃はどれも好きだったけど、いつの間にか熱心にのめり込まなくなった。まぁそれが大人になったってことなんだろうけど。
厚治の場合はたぶんそのまんま、子供のまま大人になってしまった。ただそれだけだ。だけど…多田とかクラスの奴らは、厚治が俗に言う『オタク』だとその存在を括る。いや端から見たら、ろくにクラスメイトと会話もせずにゲームや文庫本にかじり付いてる姿をみたら、そう思うのが普通かもしれない。けど、俺はそれが許せないんだ。きっと厚治よりも。
「でも本も借りたんだよ今日は。剛も見てみる?」

「俺?無理無理無理だよぜってー無理!活字なんか教科書だけで飽き飽きしてるのに」

「本の活字は教科書の活字とはまた違う顔してるよ。相手を選ばないし受け入れてくれる」

時々厚治はよく分からないことを言う。活字に顔も選ぶもあるわけないだろ。でもこんなに饒舌に喋る厚治は誰も見たことがないだろうから、こんな時は、ちょっとした優越感を感じる。あいつの縁無し眼鏡の奥にある目も、ちゃんと生き生きとしてるから俺まで嬉しくなる。…とか柄にもないことは言わない。

「な?剛もカラオケとか呑み会もいいけど、たまには見てみればいい」
「えぇ…あーうん。気が進めば」

ほい、と薄めの文庫本が手渡される。反射的に受け取ってしまって、しまったと思ったが、本の薄さに驚く。厚治が読む本はいつも分厚めだから身構えてた部分があったのだが、拍子抜けだ。

「なんだ珍しくいい感じに読みやすそうな」

「うん。えっと、それは改訂版っていうかだいぶまとめられたやつなんだけど…読んでみて。厚治ならこの本の良さきっとわかると思うから」

厚治の手にはもう一冊本が握られている。なるほど、その本がもっと分かりやすくなったのがこの本か。

鞄のチャックをわざわざ開けるのが面倒なので、鞄の隙間に本をねじ込んだ。厚治の視線を感じたが気付いてないふりをする。…雑な仕舞い方だったけど、許せ。


****



放課後、委員会の打ち合わせが終わって教室に戻ってきたらクラスの雰囲気がなんか変だった。今日は金曜日だから、週末前で浮き足立っているのかとも思ったが、どうも変だ。

ちょうど側に気の合う仲間である里村がいたので、何かあったのかと聞いてみると里村は青い顔で俺に言う。

「や…ちげーよ、なんか…多田が」

多田?

嫌な予感がして耳は里村の話に集中したまま、目で厚治の姿を探す。

「多田がさ、その…お前の幼なじみにまたちょっかい出したみたいで。本を、取り上げて…俺、お前探したんだけどいなくて…ごめん止めれなかった…」

苦々しく顔を歪ませる里村に俺は何も言ってやれない

―――いた。窓際の一番前の席に俯き加減に座る厚治と、黒板前で卑しい笑みを浮かべた多田。傍観する野次馬も、繕ってはいるが一様に卑しい表情だ。
以前里村は、俺が、厚治が昼飯を一緒に食べる友達がいないと相談すると、じゃあ一緒に食えばいいとあっさり言ってくれたようないい奴だ。なんでこんな良い奴が泣きそうな顔してて、あいつらは笑ってんだよ。おかしいだろ。

里村の静止を振り払って、俺はゆっくり2人に近付いていく。

「いやーそれにしてもびっくりしたよー、ゲームだけが友達の大人しーいコウちゃんが、まさかこんなエロい小説読んでたなんてさぁ!今までやってたゲームもさ、もしかしてエロゲってやつ!?」

餓鬼くさくてもいいから、多田をあの時締め上げとけばよかったと心から後悔した。
多田に混じって、数人の女子がキモいだの最低だのなんだの、自身の人間性を棚上げした言葉を吐き捨てる。俺に前告白してきた女子も汚いものを見るような目で厚治を睨む。対象が違うだけでこうも変われるものなのか。もしここに鉄砲があったら全員迷わず射殺するのに。

「『陶器のような肌に頬を寄せれば、サリアは乳房を揺らして体をくねらせた』だってよ!やっべーちょー興奮するー」

多田の取り巻きのチビが、多田が取り上げたという本を音読する。よく見てみればその本は、この前厚治が俺に紹介してくれた本だった。

あいつあんなに嬉しそうに話してたのに。あの時の厚治の生き生きした感情を表情を、あいつらは殺そうとしている。許せねえ。絶対に許せねえ。頭が痛い。くらくらする。拳が怒りでぶるぶる震える。

俺が多田の方へ一歩踏み出した時だった


「…俺、そんなつもりでその本、読んでない」

小さな、でも教室にいるどいつにもに届くような声が聞こえた。厚治だ。今まであいつが言い返すことはなかったからか、多田の奴らもあっけにとられている

「俺には何言ってもいいけど、本は、悪くない。だからこの本を否定するようなこと…言わないで欲しい。ちゃんと、読んでから言って欲しい」

それだけ言うと、厚治は机の横に掛けてる鞄を取って、静かに教室を後にした。俺はすぐさま追いかけようとしたが、ぎゃはははは、と下品な笑いがそれを遮った。


「まじであいつキモくね!?本を馬鹿にするなって…ぎゃはははやべーよ!まじで救えねー!引くわ!死ねよ!」

多田があいつの机を蹴る。机に入ってた教科書が床に散る。多田の仲間のチビが、持ってた本を踏みつける。女子が手を叩いて笑う。クラスの奴らも曖昧に笑う。


本当に救えないのはどいつだ?




「ねぇ、なにしてんの」


水を得た魚のように騒がしくなったクラスが、水を打ったように大人しくなる。


「…お、剛。戻ってきてたんだ…」
「質問に答えろ。なにしてんの、なに笑ってんの?」

「え…や…あいつやばくて、なんか」

目を白黒させる多田とは違って、至って冷静な自分に気付く。これなら殴らないで済みそうだ。

「やばい?なにが」

「え…ほら、あいつエロ小説読んで
「あんさ、話ずっと聞いてたけどあれのどこがエロいの?なぁもっかい音読しろよ。乳房がどうした?」

「つ、剛…落ち着けって」
「オナニーもセックスも無修正のAVもSMもサロンもお前ら知ってるくせに。あの本の描写がエロい?あいつがキモい?笑わせんなよ。下ネタがねーと会話が成り立たないお前が言える立場かよ。誰にでもほいほい股開く女が笑える立場かよ」

周りの苦笑が凍りつくのがわかる。…わかるけど今更止められない

「ごめんって、冗談じゃんか、な?…ま、全く剛はオタクに甘いんだからさ」

俺は側にあった机に拳を振り落とした。電流がびりりと走る

「黙れどーでもいいんだよオタクとかオタクじゃないとか。お前はどーしても人を分類しなきゃ気がすまねぇのかよ。相手を見下すことでしか安心できねぇの?可哀想な奴」

「ご、ごめんって剛、わ悪かったよ」

「じゃあ土下座しろよ。土下座。」

「へ…?」

「笑った奴ら全員に言いたいとこだけど、面倒だからお前だけでいいよ。さっきお前が言い掛かりつけた厚治の席に向かって、土下座しろ。『ごめんなさいもう幼稚なことしません』って言え。さもなくば俺、本当に怒るよ」

もう怒ってるよ…と誰かが呟いた気がしたが、幻聴だろう。多田は真っ青な顔で、ゆっくりと膝立ちになると、両手を恐る恐る床について、小さく頭をもたげた。

「…ご、ごめん、なさい、もうよ、幼稚なこと…しません」




俺は多田の言葉に笑顔を作る。
多田は眉を下げてホッとした顔になる。



「謝ってすむと思ってんの。めでたい奴だなホント。死ねよ」

俺は教室を後にした。鞄を忘れてきたけど、行かなきゃいけない場所があるから、戻ろうとはしなかった



****


「なんだ剛か。びっくりした。」

ドアをノックすると、部屋の主である厚治が顔を出して、中へ招き入れる。俺にとって厚治の家の玄関ドアは、玄関ではない。厚治の部屋のドアが玄関だ。なぜなら、こいつの両親は仕事でいつも居ないし、こいつの弟はグレて夜遊びに走っている。極めつけに厚治は玄関のチャイムが鳴ってもゲームに夢中で絶対に気付かない。つまり、決して俺が非常識なわけではない

「…ん。泣いてんじゃないかと思って来た」

厚治は俺の言葉に一瞬きょとんと目を瞬かせたが、すぐに俯いた

「別に…泣かないよ、慣れてるし」

厚治はまた部屋の中央に座ると、コントローラーを握りゲームを再開する。どうやら銃で人を打ち殺していくゲームみたいだ。もしかして打つ標的を、リアルに存在する人間に当てはめてたりするのだろうかとか、また主観的なことを思ってしまう。これじゃ俺も多田とかと変わんねーよ

ゲーム画面から目を逸らして、今度は厚治を見つめる。けど厚治は視線に全く気付かない。

厚治は俺が楽しめなくなった世界を未だに独りで楽しんでるんだ。いつからお前と違うものを見始めたんだろう。それが悔しくて、歯痒い

感傷的になり始める自分から逃げるように、厚治に話しかける。

「なぁ、髪染めれば?せめてワックスとかで遊ばせるとかしねぇとダサいしさ。な?」

俺の言葉に厚治はため息をつく。

「え…いいよ。剛はともかく、俺には絶対似合わないし」

「じゃ、じゃあさ野暮ったい眼鏡なんかやめてコンタクトにすればいい!それだけでもだいぶ印象変わるもんだし」

「目にあんな異物入れるの怖いよ、無理だ…」

加工なんかしたことない髪に、縁無し眼鏡、自信なさげな表情に猫背。その外見で、まずあの馬鹿共の加虐心を煽ってるのが、まだわからねえのかよ

「…分かった。外見変えろとも、アニメ見るなゲームすんな背筋伸ばせとか、無理なことは言わない。言わないから…せめてアドレスだけでも変えろよ」

自分でも何故アドレスに話が飛んだのか分からない。多田を黙らせたときみたいに冷静になれたら苦労しないのに。厚治のことになるといつもこうだ。

「剛…さっきからどうしたのさ…なんで?面倒くさいよ」

「面倒くさいじゃねぇよ!なんだよ『kouzigandam』って。オタク丸出しじゃねぇか。そんなんだからクラスの女子とか多田の奴らにいじられんだろ!」

「…アドレスの変え方わかんなかったから、弟にしてもらったんだよ。そしたら勝手にそんなアドレスにされたから仕方ないだろ…俺はガンダムに何の興味もないのに」

厚治の弟のへらへらした顔が目に浮かんで、思わず舌打ちする。弟にまで見下される厚治が哀れだ。あの馬鹿今度会ったら覚えてろよ。優しいお兄さんが社会の厳しさを教えてやる

「じゃあ俺に言えよ!アドレスなんかいくらでも変えてやる!お前が変わろうとしないから俺も何の助けもしてやれないし、周りも好き勝手言うだろ!」

「別にいいよ、慣れてるし。言わせとけばいいよ周りには。剛は気にしなくていいんだ、なんも気に病むこともないんだ」

厚治なりの優しさだとは分かっているが、今はその優しさが、突き放されてるようでひどく胸が痛む

「それじゃ俺が納得行かねえんだよ!…なぁゲームとかで現実逃避すんなよ。ゲームの相手は設定された顔しかしないし、設定された答えしか言わないだろ!?」

部屋をぐるりと囲むようにある、漫画や文庫本だらけの本棚とゲーム機にパソコン。

こんな狭い空間があいつの世界なら俺がぶっ壊してやる

「剛、あのさ」

「うるせえよ!お前はそんなんだからいつまで経っても子供のまんまなんだよ!いい加減目覚ませよ!オタクって言われる奴と一緒にいる俺の気持ちも考えろ!」

違う。違う。違う。…俺はもっと堂々とお前と一緒にいたくて、お前にもっと現実の世界でも笑って欲しくて


「剛、いいよ。ごめんな」

初めて厚治がこっちを見る。

「前から言おうって思ってたんだ。…けど俺、剛から離れたくなくてさ」

厚治はほろりと涙を流した。
厚治の泣くのを見たのはそれが初めてだった

「だから、せめて邪魔にならないようにと思って、クラスでは剛にあまり喋りかけないようにしたし、…人気者なおま、剛が他の友達と話したそうな時は、俺トイレに行くからとか言って。馬鹿だよな、そ、存在自体が邪魔だったのに」

厚治の頬を後から後から涙が濡らす

「こんな駄目なやつでごめん。今まで世話焼いてくれてありがとな、もういいからさ」

「こ、うじ…」

「明日から俺1人で大丈夫だからさ」

「こ…」

「元々家でも1人だったんだから大丈夫だよ、正常に戻るだけって思ってくれればいいんだ」

「せ、正常ってお前…」



「…笑え。剛。な?」


お前泣いてるくせに何言ってんだ。
厚治は泣き笑いを浮かべると、俺から目を逸らしてまたゲームを再開する。肩が小刻みに震えてるのはゲームに興奮してるからじゃない筈だ。

俺はのっそり立ち上がって厚治の部屋から出ていく。ドアを閉める前に振り返ったけど、厚治はこっちを見てなかった。


家に帰って放心状態のままベッドに転がる。頭の中がぐちゃぐちゃだ。なんであの時あいつの言葉を否定しなかったのかと激しい後悔に襲われる。

いつもこうだ、自分の本当に言いたいことがまとまらなくて、相手には、感情に任せて吐き出した的外れな言葉を『本音』にとられてしまう。邪魔なんか思ったことないのに。むしろ、居足りないくらいなのに


たぶん俺、あいつ以上に、あいつに執着してるんだ。


床に放ったままの鞄の中に手を突っ込んで、目的のブツを探す。厚治から紹介してもらった、あの本だ。取り出してみると、あんな雑な入れ方したから表紙が折れ曲がってしまっている。静かに折れ目を指でさすって表紙を開くと、俺は活字を目で追い始めた。

読みすすめていくと、どうやら上流貴族の女と、貧しい画家の悲哀に満ちた恋が描かれた本らしい。脚注が後ろのページにあるので、俺でもなんとか分かる。本なんか読むのは読書感想文を書かなきゃいけなかった中学生のとき以来だから、もの凄く読むのに時間がかかる。でも一言一句見逃さないように、俺は半ば躍起になって文字を追った。

どんな真意があって、厚治はこの本を俺に手渡したのだろうか。

途中、多田が馬鹿にしてた例の描写のページに辿り着いたが、全然エロくなかった。そんな言葉で片付けるのが低俗だと思えるほど、生命力っていうか、人間らしさが感じられて綺麗だと思った。厚治が言ってた『教科書とは全然違う顔した活字』って言葉の意味がなんとなく飲み込める。

あるページで、俺は本を捲る指を止めた。内容は、女の誕生日に何もプレゼントを用意しなかった男を女が問い詰め、男が言い訳するというものだった。


 僕には何も無いから、何を

 君に贈れるかを、寝ないで

 考えたんだ。でも皮肉な事に

 何も、思い浮かばない。

 靴だって服だって孔雀の帽子

 だってオパールの指輪だって

 君は既に持っているんだから。



なんであいつにしては珍しい、薄い本を、俺に渡したんだ。
物臭な俺でも読みやすいように、一生懸命選んでくれたからだろ。

なんであいつは、教室で俺と会話するとき、いつも余所余所しかったんだ。
自分と親しくすることで、俺に被害が及ばないか不安だったからだろ。

ずっと見てた筈なのに、なんで今頃気付くんだ。

俺は昔からあいつと一緒で。
…一緒にゲームすることは
なくなってもやっぱり一緒で。
あいつを守りたくて。あいつを馬鹿にする奴は許せなくて。あいつが不安そうな顔してると俺も苛々して。あいつの笑った顔をみると俺まで機嫌良くなって。

こんな風になるのは俺達が腐れ縁で、切っても切れない仲だからだと決めつけていたけど、何かが違うんだ。大抵そこで面倒臭くなって、考えるのをやめてしまうけど。

窓の外は真っ暗で、いつの間にか時計の短針は真上を指刺している。ページ捲る指は止まらない。


「あ」と、不意に自分の口から呆けた声が出る。徐々に気分が高揚していく


最後のページの、
男の最後のセリフだ。
そうか。これだ。


一冊の本を読み終えた達成感も合って、ひどく満足な気分になった俺は、そのまま眠りについた。




****



朝、重い足どりで玄関を出ると、門の前に剛がいた。
…昨日のことがあるのになんでいるんだ。しかし今日は土曜補修がある日だ。このまま立ち往生するわけにもいかないので、門をゆっくり開けて、びくびくしながら剛の前を通り過ぎる

「……」
「……」

なんだ、何も言われなかった。嫌がらせかと思って緊張してしまった自分が恥ずかしい。すると、足を数歩進めたときに、背中に衝撃を感じた。…後ろにいる彼に、何か投げつけられたみたいだ。

足元に落ちているものに目をやる。…俺が渡した本だ。

悲しいやら腹立たしいやら色んな想いが沸々と湧いてくる。やっぱり今日学校休めばよかった。

「…こんな返し方しなくてもいいだろ」

本を拾い上げて、軽く埃をはらう。折り目つけてるし。

「全部よんだ」

剛は構わず喋りだす。昔から自己中心的なとこがあったけど、やっぱり治ってないみたいだ

「分かったんだ、俺の言いたいこと。あの本の一番最後なんだ。あれだよ」




剛が笑う。
俺の視界がぼやけているから、そう見えるだけだろうか





















『世界が違うと言うのなら、2人で世界を作ればいいじゃないか、僕の愛しき人よ』


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