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法則は覆される。ミサンガは泣く。
※好きになられた側のお話





親がどちらも仕事で出払ってる時に、家の電話が鳴った。俺は風呂に入ってた訳だけども、裸体のまま、受話器を上げに居間へ走る。1人で留守番してる訳じゃあないが、俺のもう1人の家族であるじいちゃんは、ボケてるから電話番が出来ないのだ

…それにしても電話のコールが鳴り止まない。軽く20回は鳴っているだろう。しつこい奴だ、と舌打ちしつつ、俺は湿った手で受話器を上げた


「もしもし」

「…もしもし」

オウム返しのように返事が返ってきた。低めの声でしゃがれた男の声だった。どうせ親父の仕事関係だろう。携帯にかけろよ。じいちゃんの呆けたような横顔にも苛々してしまう

「どちら様ですか。親はどっちも仕事で」

「…恵介か?」

何で名前知ってんだよ、てことは俺の知り合い?親戚とか友達とかバイト先の奴の顔が頭の中でカシャカシャ巡る。戸惑う俺そっちのけで相手は喋り出す

「恵介、俺わかんねえの?」

「すみません全然分かんないっす」
相手が年上だということは想像がつくので一応敬語を使った。相手の、忍び笑いのような大人っぽい笑い声が、受話器の耳に当てる部分を振動させる

「てめーな…ころすぞ?お兄さんは心配してやってんのに」

瞬間、頭の中を巡ってた顔と記憶のモンタージュみたいなのが、かしゃん、と音を立てて一致した

「え…船渡さんすか、もしかして」

「遅ぇよ」

「うわ、久しぶりっすね!元気でしたか!?懐かしすぎてやばい!」

船渡さんは社会人サッカーの先輩で、半年前からいろいろお世話になってる人だ。パーマのかかった黒い髪を肩まで伸ばしてて、顎髭がワイルド。でもそんな外見を裏切って、中身は下ネタが大好きな只のおっさんだ。

「懐かしいって…せいぜい3ヶ月くらいだろ。人のことを死んだ奴みたいな言い草しやがって…恵介今度電気アンマの刑な」

「ぎゃはははやめて!あれあそこがひゅううんてなる!」

でも、すっげー気さくで面白くて格好よくて、俺も密かに信頼してる人でも、ある。

で、そんな人が何故俺んちの電話に?ていうか何で番号知ってんだ?

「あ、で船渡さん今日どしたんすか、なんで俺んちに電話を。」

短い沈黙。知らないふりをしたけど、俺はとっくに船渡さんの真意に気付いてた

「その…だから…お前何で最近顔出さねんだよ。しかも、休むときは一応連絡するよな普通。副キャプの俺としてはほっとくわけにはいけねーだろ」

…やっぱりか。いつかはちゃんとしなきゃいけないとは思っていたけど、後回しにしてきたツケが来たんだ

「…すんません。」

「なぁなんか富田とかとうまくいってねーの?お前のこと聞いても、いつも困った顔するばっかで」

「富田てか…友達は関係ないっす。むしろ俺が悪いっていうか、…悪いんす」

「じゃあなんでだよ、藤井センセも心配してんぞ。」

藤井先生は中学の時の部活の顧問で、社会人サッカーに入ったのも、受験勉強の息抜きにって先生に誘われたのがきっかけだった。

藤井先生にも…最近会ってなかったな

「や…それは…。てか船渡さんも来ないときあるじゃないすかー」

「俺は仕事。お前とは違うだろ」

ぴしゃりと言い返される。ごもっともだ。この期に及んでも、笑って誤魔化そうとしてる自分がいやらしい。

「ほんとのこと言えよ」
「ダメになったんっす」

「あ?」

「俺、部活で腰痛めたんです。それが結構重症みたいで。医者には長い時間かけてリハビリすれば、復帰は出来るとか言われたけど、最後のインハイは確実に無理で」

努めて明るく笑って言ったつもりだけど、向こうが息を呑むのがわかった。気まずそうにしないで欲しくて、勝手に口が動く

「富田は部活で一緒だから腰の負傷知ってるはずっすよ。すごい八つ当たりしてたんで、あいつに合わせる顔ないっす。てか誰にも言ってないんすねー優しー面倒くせー。…とゆー訳で、もうどうせなら社会人サッカーもやめて、勉強に専念しよっかなーとか思ってます」

いいんだもう全部面倒くさい。ケガくらいで自暴自棄になる俺自身も、腫れ物を扱うように俺に接する友達もコーチも、親も、みんな黙れ、消えろよ。俺が今までやってきたことの意味を教えろよ。てかなんで俺だけこんな目にあってんだよ、なんで俺だけ。なんで、なんで



「…俺は恵介にやめてもらったら淋しいけどな」

いい年した大人が淋しいとか言って恥ずかしくねえのとか思ったけど、あんまり静かに船渡さんが言うから、不覚にも一粒だけ涙がでた。

ああ、なんだ俺泣けたんだ。


じいちゃんが小さく嚔をした。



****


船渡さんに誘われて、俺は久しぶりに社会人サッカーに顔を出すことになった。場所はいつも通り、小学校のグラウンドだが、グラウンドに続く坂道を登っていく度に憂鬱になっていく。ストレッチだけやるつもりで来いって言われたけど、やっぱり来なきゃよかったと後悔し始めたときだった。


「…恵介?うわ、本物だ」

謀ったようなタイミングで、坂道を下りてきた富田と鉢合わせた。坂道の下に自動販売機があるから、飲み物でも買いに来たんだろう。…でも心の準備くらいさせろよ、おい


「…よ、富田」

久しぶりだと富田が応える。笑ったら片方の頬にだけえくぼが出るこいつの顔も、えらく見てなかった気がした。

「一緒にグラウンドまでいこうや。藤井先生とかも今日きてんぞ」
富田は俺と肩を組むようにして、坂の上の方向へ引っ張る

「えっでもお前自販機に用あるんじゃねえの」

「んー忘れた」

変なの。

富田と話しながらグラウンドに向かうと、フェンスの入り口に船渡さんが立っていた。船渡さんが俺をみて微笑む。
俺も微笑んだけど、なんだか電話した時のことを思い出して、固い笑い方になってしまった。


「な、恵介向こうでストレッチしようぜ」

富田が俺を急かす。誘ってくれたのは船渡さんなのになんか悪くて、ちらっと振り向く。船渡さんはよく分からない表情で俺を見てた。

グラウンドを富田と2人で歩いていると「久しぶりだな」とか「元気してたか」とか色んな人に声をかけらた。照れ臭いけど嫌じゃなくて、むしろありがたかった。


俺達は芝生が軽く茂ってるとこに腰を下ろして、それぞれストレッチをし始める

「…ほんと、な。久しぶりだよな、こーやって並んでストレッチすんのも」

富田が照れ臭そうに言った。

「恵介、俺、今すげえ嬉しいんだ」

「…おう」

「俺もみんなも、待ってるからさ。部活こいよ」

「…おう」

他に富田に言いたいことが沢山あったのだが、返事を返すのだけで精一杯だった。胸が苦しい。肺が幸せな気持ちで膨れてる感じだ。俺が頑なになってだだけだったんだ。あほらしい。自分が閉じ籠もった殻の外側から呼びかけてくれてたのは、暖かい人達ばっかりだったのに。


「富田…なんか、ありがとな」

「なんだよやめろよ」

2人でニヤニヤしながらじゃれ合ってると、富田が突然ストレッチの動きを止める。そして、何か言いた気に俺の方を見た。

「…どうした?」

「…そういや、さ」

「うん」

「いや、やっぱなんもない」

「言えよ、なんだよ」

「…あのさ。ふ、船渡さん、さ」

船渡さん?

「そうだ、あの人ほんとチームの人のこと考えてくれてんだな、こん前俺んちに電話までかけてきてくれて、感動した」

「…電話?」

富田は、俺の言葉に眉を顰める。

「え、なんだよその顔。…お前んちも連絡とかで、掛かってきてきたことくらいあんだろ?」

「…や、ねえよ」

え、じゃあどういうことだよ。船渡さんは俺だけに電話を掛けてた?でもなんのために、いやなんのためにって…来なかった俺を心配してくれて、だろ


俺の認識に、奇妙なズレがあるような気がして、変に胸騒ぎがする


「…な、恵介、俺前から思ってたんだけどさ、あのひと
「恵介。」

富田が再度口を開こうとしたら、後ろで船渡さんが俺を呼んだ。あまりのタイミングに驚いて、2人同時に振り向く

「おわ!何だよお前ら、びっくりさせやがって」

「はは…じゃ、俺ウォーミングしてこよっかな」

富田が隣から立ち上がって、駆け足で芝生から離れていった。しかも俺にだけ分かるように、「気をつけろ」って小さな声で警告を残して。気をつけろって…何をだよ


「よかったな、仲直り出来たみたいじゃん」

「…うす、おかげさまで」

富田の代わりに、今度は船渡さんが隣に腰を下ろす。いつもより距離が、拳1個分近いような気がするのは富田のおかしな警告のせいだ。船渡さんの発する言葉の切れ端や表情が、何か妙に引っかかるような気がするのも、きっと、富田の警告のせいだ。

「あ、これ言ってたやつな」

落ち着かない俺をよそに、会話を進める船渡さんがジャージのポケットから取り出したのは、ミサンガだった。一瞬、言葉に迷ったが、喜びが顔全面に出るように心掛ける

「う、うわ、すげぇ!本当に作ってくれたんすか!うわー!」

「…おう。夜中に寝る間を惜しんで作ってやったんだかんな。大事にしろよ」

いつでも身につけとけよ、とも念を押されて、手の平のミサンガがずっしりと重みを増したように感じた。


「…あ、はい。ありがとうございます」

船渡さんは、無言で俺の頭を撫でる。

落ち着けよ、前にも頭を撫でられることぐらいあったじゃねぇか。なんでこんなに緊張してるんだよ



「あ、そ、そういや船渡さん、あのとき俺の家の番号よく知ってましたね」

とにかく一刻も早くこんな状況打開したくて、俺は口早にどうでもいいことを質問する

「ああ、あれなー。お前のクラスに水島っていんだろ」

「え、あ、水島伸二のことすかね」

「あいつに聞かれただろ?電話番号。

…お、悪いちょっと召集かかってるみたいだから一旦行くわ。ミニゲームか…面倒くせぇな」

「あ、いってらっしゃいませ」

「おう。ハットトリック決めてくるわ」

そうおちゃらけた調子で言って、グラウンドの真ん中へ走っていく船渡さん。でも俺は船渡さんのジョークなんか聞いちゃいなくて、さっきの電話番号の話ことで頭が一杯になってた

思い出してみれば、以前、クラスでも接点があるわけじゃなかった水島に、話しかけられたことがあった。そんで、いきなり電話番号教えてと言われた。でもその時は「連絡網の関係で」とか言ってたんだあいつ。なんでそれが船渡さんに?

「気をつけろ」の意味も早く富田に問いたいが、ミニゲーム中だからどうしようもない

「うわ!」

すると突然なんの前触れもなく、視界が真っ暗になった。目の周りの皮膚に感じるのはゴツゴツした皮の厚い、男の手だ。

「だーれだ」

声を高めにしてるつもりだろうが、正直、男らしいにもほどがあるぞって声だ。気持ちわり。


「…藤センだろ」

ぱっと手が離れて、また元の明るさが戻ってくる。明るいといってもグラウンドのライトが点いてるからであって、時間はたぶん夜の8時くらいにはなるだろうが。

藤井先生はニマニマした笑顔で俺を見下ろす。先生は昔空手で全国2位になったくらいだ。縦もあるが肩幅もある。

「おい恵介〜お前ほんと顔出さないから心配したんだぞ〜暫く見ないうちにひ弱になって〜」
腕を触られたので、俺もいつものノリで先生の腹の肉を掴む

「うっせー。藤センこそまた腹出たんじゃねぇの、ビールっ腹ってやつ?」

「バレた?」

豪快に笑う藤井先生は脳天気に見えるけど信用できる人だし、暫く社会人サッカーに来なかった理由もしっかり伝えたが方がいいよな、うん。なんたって元顧問だったし

なんて言おうか考えていたら、頭上に聞こえたてた藤井先生の笑い声がふい止んだ。顔を上げれば先生はこちらが怯むくらいに、じっと、俺の目を見ている。


「え、藤セン…どうしたんだよ?」

「お前に聞きたいことがあるんだ」

「なんすか急に真面目な顔して」



「何があった。船渡さんと。」

自分の顔から血の気が引くのが分かった。さっきの電話番号のことも手伝って、益々船渡さんへの疑問が湧き上がる。富田といい先生といい、どうして

「へ、変っすよ、先生たち…なんで船渡さんのことをそんな風に…いつも通りじゃないすか」

「いや前とは違う」

「何が」

「…見る目が、だ」

「だから、俺はなんも変わってないです。尊敬する先輩です。変わってるのは先生たちの方じゃないすか、よってたかって人を」


「違う」

「え?」

「あの人が、お前を見る目が、だよ」

いつの間にか、ポケットのミサンガを、千切れるくらいに強く握り締めていた。




俺が電話口で泣いたあの夜、実は通話はまだ続いてたんだ。

…変な方向に、会話は進んで


「お前付き合ったことあんのか」

「え、なんすかいきなり。…あ、ありますよそりゃ2人くらいは」

「すっくねぇなあ。じゃ、初体験はいつだよ。まさかチェリーか?ちなみに俺は中1だ。年上の女。すっげえのそいつが」

「はやくね!?て、…てか、な、なんなんすかホント!電話口で話すことじゃないっすよ!」

俺は、船渡さんのお得意の下ネタが始まったなーと思って、さっきのシリアスさとのえらい違いに苦笑する


「…ダメか?」

ところが船渡さんの反応が予想外だった。今まで聞いたことないくらい、優しい、甘い声だった。まるで、それは。

「ダ、ダメっていうか…恥ずかしいじゃないすか」

何も返事が返って来ない。電波が悪いのかと思って船渡さん?と呼びかけてみる

「お前なぁ…ほんと…」

「なんすか?」



「かわいいよな」




それは、まるで、恋人に話しかけてるような、そんな声だった。





そのあとも、過去の恋愛遍歴教えろだとか、暇な時呼べばどっか連れて行ってやるだとか、お前は笑顔がかわいいだとか、いろんなことを言われたし、話をされた。そのときは、励ましてくれてるのか、としか思わなかったから、違和感はあっても警戒心とか全くなかったんだ。

「…へーじゃ結構指器用なんすね」

会話がふいに趣味の話になった時だった。船渡さんがミサンガを編むのが得意だと言った。

「前、客にそんなんがいてさ、教えてもらったんだよ。で、それからハマって…お前にもいつか編んでやるよ」

「あはは期待しないで待ってますね、じゃあ」

そうだよミサンガも、まさか本気で編んでくれるとは思ってなかった。

でも、実際編んでくれてて。貰った時は、嬉しいというよりも、正直、嫌な予感が膨らんだだけだった。



俺は洗いざらい藤井先生に話した。先生の強い瞳の前で隠し事なんかできるわけがない。

「…で、もう電話はそれっきり掛かってきてないんだな」

「あ…えと…」

「…何回掛かってきた」

「…4回です」

先生は、呆れた、と目をぐるりと回す

「…お前よく携帯の電話番号教えなかったな」

「や、今修理中なんすよ。だから家に掛けてこられたんだと思います。俺んちの電話番号は…それが俺もよく分かんないけど、たぶん…同じクラスの奴からのツテかなんかで聞いたんだとと思います」

「そいつの名前は?」

「え…水島っていう奴ですけど。聞いたって先生知らないでしょう?」

「水島伸二か、もしかして」

「そ、そうです!なんで知ってんすか!」

先生はニヤリと笑う。悪代官かよ

「水島伸二は、俺が中学でクラス受け持ってたときの教え子で、…船渡さんの従兄弟でもある。」


なんだこの変な繋がりは!と俺は内心世間の狭さに恐怖を感じた。

先生は顎に手を当てて、険しい顔で考え込んでいる。
俺は気が気じゃなかった。『身から出た錆』が口癖だった藤井先生に、なんとなく、殴られるような気がしたからだ

藤センのゲンコまじで痛いのに、考えたら泣きそう、まじで

すると、俯いてた俺の頭に、ポンと、あのゴツゴツした手が乗った。船渡さんの頭の撫で方とは全く違った。


「怖かったな」

ぐ、とまた瞳の中で水分が盛り上がるのが分かる。最近俺の涙腺は人の優しさに弱いのだろうか。泣くな男だぞ俺は。


「…あの」

「ん?」

「船渡さんは、悪く、ないですよね、いい人ですよね?」

前と変わらず、気さくで面白くて格好よくて、俺も密かに信頼を寄せる、兄貴分。そうですよね?

「…子供使って電話番号聞き出して、電話口で変なこと吹き込んで、自分より一回り幼い筈の高校生、しかも男に…あらぬ感情を持って、あからさまな好意とも気付かないお前に押し付けようとしたんだ。それでもお前は、あの人を只のいい人として思えるか?」

俺は何も言えなかった。
先生は、俺は前から信用してなかったんだとぶつぶつ独り言を言っている

「…あとはこっちがなんとかするから、今日は富田連れて先に帰れ。いいな」

「でも…」

「いいな。…万が一、船渡さんから連絡がきても無視するか先生に言うこと。返事は?」


はい、と小さく言うと、藤井先生はまたいつもみたく微笑んだから、俺もぎこちなくだが微笑み返した。先生はそれを確認すると、身を翻してグラウンドの中心で休むメンバーに向かって叫ぶ

「おーい富田!恵介が今日具合悪いって言ってるから一緒に帰ってやれ!」

藤井先生の呼びかけに、こっちに駆け足でやって来た富田は、何も言わずに俺の隣に並び、「行くか」と言って歩き出す。

手を引っ張られて、つんのめりながらも、俺は心配で後ろを振り向いた。


船渡さんは、大丈夫だろうか



「…ほら、行くぞ」

「あ、…うん」

俺達が坂道を下り始めた時、後ろの方で、「船渡さん、ちょっとお話聞いてもいいですか」と、凛とした声が聞こえた


富田が「先生かっちょいーじゃん」と、口笛を吹いた


****




「俺はかなり前から思ってたね。船渡さん、恵介のこと恋愛対象として見てるって」

「ええ…お前鋭いのな」

「お前が鈍感なだけだっつの。あんなあからさまにデレデレしてたら分かりたくもないけど分かるだろ。…まぁ相手は男だし、気付かないのもおかしくはないか」

俺はあれから、部活にも、そして社会人サッカーにもちゃんと参加するようになった。…でも今度は、そこに船渡さんの姿はない。

船渡さんを思い出すと何週間か経った今でも、少し胸が痛む。俺が誰にも電話のこと言わなかったら、よかったのかなって思うときが結構ある

「最近やっぱ船渡さん来ねーよな、俺、なんか、悪くてさ…」

「お前は悪くない。てか、そりゃ来れる訳ねえだろ。聞いた話によると藤井先生『俺の生徒に手を出すな』とかハッキリ言ったらしいぜ。まぁ先生も大人だし、喧嘩腰ではなかったろうけど」


「そうなのか…」

「それにお前甘いこと言ってるけどさ、もし船渡さんが来たらお前は前みたいに接することが出来んのか?」




「…分かんねえ」



船渡さん、俺分かんないんすよ今でも。もし船渡さんが、もしも、万が一、…俺のことが好きだったとするならば、やっぱりすごく傷つけてしまったんでしょうか。俺はまだ全然ガキで、恋愛の…その、男同士の恋愛とか考えたこともなくて、全然男を好きになる気持ちも理解できないんすけど。…船渡さんの気持ちには、天と地がひっくり返っても、応えられない、けれど。いつか、謝りたいなって思ってます。こんな風に船渡さんのことについて考えてたら













左手のミサンガが時々泣くから


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あきゅろす。
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