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葉桜と魔笛とエロビ
※下品です。関西弁丸出しです。
























「…なにしとん」
「自慰」
「ほんまころすで」

今日は日曜日でバイトから帰ってきたら、ユタカが俺の部屋にあるAVみながらオナってた。くつろがせたスウェットの下。散乱する綿みたいなチッシュ。ちょっと、ほんまに、えっなに?これドッキリなん?たちわるいな


「のん、これ結構ええな」


ユタカが、「これ」と上下運動してない方の腕を上げて、画面に映し出される男の絡み合いの映像を指差す。いやその前に上下運動やめい


「…ホモビやで」
「おん」
「普通きしょいんちゃうんか」
「ゆうたら熟ビ並みの興奮や」
「きしょ死ねや」

ユタカが根っからの女好きで、熟女キラーなのは知ってる。前の彼女は人妻てゆうてた。つーか熟女とホモて趣味危険すぎる。いやだから上下運動やめい


「なぁ、のんもいっつもこれで抜いてん?」
「…悪いか」
「ええなこれ貸してーや。心配すんなザーメンつけて返すとかは無いから」
「そんな細やかな気遣いいらんねん」


けど、お前…

と言いかけた口を噤む。

「なんや。なんか言いたそうやんけ。口パクパクさせて。新手の物真似け?」

金魚?いやひねりなさすぎるな、ほんなら子宮口?


果てしなく馬鹿で下品な男の思索に突っ込む余裕は今の俺にない。
つーかなんで俺がたじろいでてあいつが堂々としとん。逆やろ。なんか言いたいことあるんならゆえやて上から目線も大概にせーよボケカスて話や。いやだから上下運動やめい


…違う、だから今俺が
一番言いたいのは…


“お前、あのビデオ見てなんも思えへんのか。引けへんのか。俺のことキモイて思ってへんのか”
ってことや。

中学で自分のおこがましい性癖に気付いて、バレへんように女子ともそれなりに付き合って、それなりに行為もした。けど全く欲情しなかった。必死に、ネットで見たホモ動画思い出して己も性器も奮い立たせて腰ふった。

高校でできた「親友」のユタカには絶対バレるわけにはいけへんかった。徹底的に隠してきた。自分の性癖も、いつの間にか抱いてしまったユタカへの、想いも。

それやのになんやこのザマ。なんでや、なんでバレるんや。パンドラの箱みたいなもんやったのに。ずっと、その箱開けたらあかんよて遠まわしに遠まわしに伝えてきたやんか。なんで自分からこじ開けにくんねん。


「…かえれや」

喉がひりついて掠れた声しかでない。ユタカは手の上下運動をやっと止めると、怪訝そうにこっちを見る。

「のんごめん、なんて?」


「帰れゆうとんねん!!出ていけや!5秒以内に出て行けへんならほんまにころす!」



ころすて自分より頭1.5個分でかいユタカに力でかなうわけない。けどもうこれ以上土足で人のパンドラの箱を踏みつけるような真似してほしくなかった

「何怒っとんねん」
「黙れや。出てけ」
「ぶ〜」
「きしょ。出てけ」

まだ途中やのにとぶつぶつ言いながら、ゆったりとした動作スウェットの下を履き始める。
ノンケのお前に、フィニッシュまで迎えさせてたまるかとか意味分からん怒りが湧いてくる


「…なぁお前ほんまにやめろや。まじでなんなん」
俺の視線の先には、ビデオをデッキから抜いて、自分の派手なリュックの中に入れ始めるユタカがいた。

「いや、家でもっかい頑張ってくるわ、頼む。のん、貸してくれ」
「頼む、出て行ってくれ。…友達やめてもええ…クラスの奴らになんてゆうてもええから。」




これ以上面白がらんといてくれ





「…やめへんし、ゆえへん。なんでゆわなあかんの」


ユタカは普段へらへらしてんのに、たまに真剣な顔して、ものすご頑固になる。
今日ばかりは、その頑固さに、救われた、かもしれないけど

「…わかった、わかった。もうなんでもええから。ごめん今日は帰って」
「しゃあないのう」
「おいこらビデオ置いてけ」

ユタカは、「うわいつの間にお前おんねん!」と自分が今さっきリュックに入れたビデオに叫ぶと、俺の冷たい視線を受けて、しぶしぶそれを床に置いた。
そして、真っピンクのリュックを片肩にからって、たるそうに玄関に歩いていく。「いや〜あれはよかった、どこで売ってんかな〜」とビデオの感想を未練たらたらに述べながら。

余りのホモビへの執着に俺は疑問を覚える。まさか…

「もしかして…お前男が好き、とかないよな」

「むさい男よりやわかい女が百倍好きや」
「…そやよな。…知ってる」

友達を続けてくれるだけほんまにありがたいことやのに、淡い期待がシャボン玉みたいに壊れて、落胆してる自分がいる。


「ほな、またな、のん。」

ほらな、また友達としてユタカはここに来てくれるんや。ほんまに…何よりありがたいことやろ、自分。
「おう。…ごめんな。また。」

派手な原色使いが目に刺さるようなスニーカーを履くと、ユタカが振り向く。

「俺男とかむさいしきもいし怖いと思うけどな」

ぐさりぐさりとユタカの言葉が突き刺さる。分かってるよ、分かってるから言うな。自然に目頭が熱くなる。

「けどな、なんでやろな」

ユタカは首の後ろに手を回して、じれったくほほえむ。
そんな仕草みたら、やっぱり下品であほでデリカシーのデの字もない奴やけど、かっこいいなぁとか思ったりして、俺こそ未練ありすぎて、きもすぎて、泣けてくる


「ちんちん突っ込まれてたAV女優、あ、男優か。そいつがな










のんに似てて、死ぬほど興奮した」





戸が鈍い音をたてて閉まる。俺は動けなくて、涙と鼻水が止まらんくて、玄関の戸にはユタカの照れたような笑顔が張り付いたままになってた。













「葉桜と魔笛」
に出てくる
下手な詩は、
どんな意味
だったっけか





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