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小説
*間章*
「ねえ。この樹なんていうのかしら。
私、こんな美しい樹を今まで見たこと無いわ。
見て。
花弁が何重にもなって、この花のかわいらしいこと。
薄紫色の、なんと美しいこと。
ねえ。なんというの?」
女は、無邪気にその樹に駆け寄り、後ろを歩く男に尋ねた。
「――白落樹。
縁起のよくない樹だと思われているから、見たこと無くてもしょうがないね。王宮は、縁起を担ぐだろう?
でも、このたたずまいの美しさ。私は好きだな。
街では結構見ることもあるしね」
「白落樹・・・。
どうして、こんなに美しいのに宮におかないのかしら。縁起が悪いってどういうことなの?」
男は女の隣に立ち、女と同じように白落樹を眺めた。
白落樹は満開の花を咲かせている。静かに二人を見下ろしていた。
「白落樹は、不思議な樹で、春の終わりに一斉に花を散らす。それまでは、どんなに風が吹いても、散ることが無い。
――この花が散るときになったら、そうしたら由来を教えてあげよう」
女は、樹から男へと視線を移す。
「来年の春、また会おう。白落樹が散る頃、また」
女はたまらずといった様子で、男に抱きついた。男からは、ほのかに香の薫りがした。
「きっとよ。来年、きっと・・・」
男も、女を抱きしめる。
「きっと、来年もこの場所で、白落樹を一緒に見よう」


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あきゅろす。
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