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小説
碧玉の簪
「おい。何、見てんだ?」
 六太は己の主に不審そうな目を向けた。
園林の草地の上で、のんびりと寝転がり、六太に背を向けたまま、尚隆は六太に手にしていたものを投げてよこした。
 「あぶねえな」
六太は、それを上手に受け止める。それは、小さな碧色の玉のついた簪だった。さっと、血の気が引く思いがした。
 「おい。これ、ほんとに危ねえぞ。気をつけろよ。怪我でもして血が出たらどうすんだよ」
 「それくらい、お前、簡単に受け止められるだろうが。ん。そうか。お前、俺が思うほど、機敏ではないのか」
 にやにや笑うように、尚隆は言う。
 「うるせえよ。・・・てか、お前これどうすんだ?まさか、氾王みたいになる気なんじゃ・・・。悪いことは言わないから、止めとけよ?な?」
 六太は本気で心配しているのか、なだめるような声を出した。
「馬鹿言うな」
 尚隆は、心底嫌そうに言った。
 「それは玉庫の中のひとつだ。財政難だった頃、すべて売ったと思っていたがな。何故かこの五百年で再び有り余るほどに増えたようだ。だが、此処じゃ結局使い道がないだろう?」
 「それがどうした?」
 「これほど小ぶりのものなら、懐にいつも忍ばせておいても邪魔にはならん。妓楼で金が尽きたときにでも、役立てようかと思ってな。小ぶりとはいえ、王宮の物なのだから、それなりの値がつくはずだ」
 かさり、と草を踏む音がした。
 「・・・馬鹿だろ。お前」
 六太はにやりと、楽しそうに笑う。
 「じゃあな。馬鹿王。――朱衡も、またな」
 六太は、声に出して笑いながら、すばやくその場を離れた。

朱衡の怒声が、聞こえた。


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