小説 一番夕鈴に辛口の嫌味を。 昼食を終え、歓談しながら三人でお茶を飲んでいると、李順の来訪を侍官が告げた。 黎翔がその声に応じると、いつもの如く、山のような巻物を持って李順は登場した。 部屋の中を一通り見て小さく溜息をつき、適当な卓にその巻物を置く。 そしていつものように黎翔には礼を、夕鈴には厳しい目を向けながら形だけの礼をし、最後に頼章に礼をした。 「李順〜〜〜。もう仕事の時間?」 すねたような黎翔の台詞を軽く無視して、李順は持ってきた巻物の半分だけを黎翔の目の前に積み上げた。 「もう、とっくの昔に政務のお時間なのですが。 いくら待っても政務室に姿をお見せになられませんので、もしや体調でも崩されたのかと心配になり、急ぎの案件だけを持って、わざわざ参りました」 「久しぶりです、李順殿」 「お久しぶりです、頼章様。 いらっしゃっているとは存じておりましたが、まさか、ご一緒に夕鈴・・・様までもいらっしゃるとは存じませんでした。 ああ、いえ。 悪いと申しているわけではございません。 夕鈴様は、比較的時間がある身だと思いますが、頼章様におかれましては今度行われる剣術大会の草案を近日中に提出していただくというお忙しい身。 陛下も、その件で、考えていただきたいことが山ほどあるのです。 3人で楽しく過ごされるのは大変結構ですが、状況を考えていただきたいと・・・。 いえ。出すぎたことを申しました。 ですが・・・」 つらつらと嫌味を言い続ける李順を、眉を寄せ、黎翔は手で制した。 「・・・分かった。仕事に戻ろう。頼章も一緒に。 同じ案件を考えるのなら、その方が速いだろう」 そして、申し訳なさそうに夕鈴を見た。 「夕鈴。君にも一緒に来て欲しい、と言いたいところだが、今日は止めておこう」 そして、そっと横に流す夕鈴の髪を退け、耳元に顔を寄せた。 「剣術大会当日まで、中身は内緒にしたい。当日を楽しみにして欲しい」 そっと目線だけを夕鈴に向ける。すると真っ赤な顔で口を開閉している様子が見えた。 *** 黎翔と頼章2人で回廊を歩くと、普通の人は圧倒されてしまう。 さっと文官たちは、いつも以上の速さで脇に避け、そっと礼をとる。 李順は、気の毒に思いながら、その後ろに続いた。 こんな2人を前に、夕鈴はきちんと后を装いつつも、「素」に近い状態で接していたようだ。 そんなことが出来る彼女は、ただの馬鹿か、傑物か、そのどちらかだと、ふと李順は思い、そしてまあ前者だろうと、深い溜息をついたのだった。 [*前へ] |