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小説
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遠方の視察から帰って、自室へ戻るよりもまず、愛しい后の下へ、黎翔は向かった。
夕鈴の部屋の扉をくぐり、女官と団欒している様子の夕鈴を視界に納め、ふっと目元を緩めた。
「今、帰った」
そう夕鈴に向かって言えば、夕鈴は驚き、振り返る。
優秀な女官たちは内心驚いただろうが、驚きすら見せず、その場を立ち去っていった。

「陛下!!お帰りなさいませ」
にこりと、夕鈴は笑う。
「一日早いお着きで、驚きました!!お疲れでしょう?早くお座りになってください」
夕鈴は笑みを浮かべたまま、椅子を黎翔に勧めた。
その椅子に腰を下ろすと、視察中感じることのなかった疲労がずしりと体にのしかかってくる。
だらりと体勢を崩せば、夕鈴は一瞬労わるように顔を曇らせ、しかし、その様子を隠して笑みを深くした。
「温かいお茶を入れますね」
そう言って、くるくるとよく動く夕鈴を眺め、黎翔は帰ってきたんだなあと実感した。

夕鈴は、お菓子を、温かいおしぼりをと、思いつくもの、思いつくもの、机の上に並べていく。
とうとう机に並びきらなくなり、夕鈴は、ようやく立ち止まった。
何を用意すべきかと思案している様子が可愛らしい。

「陛下、何かほしいもの、ありますか?」
思いつかなかったらしい。黎翔を見て、小首をかしげる。
十分だよ、と喉元まで出掛かって、止めた。
代わりに、夕鈴を手で招き寄せる。
何も疑うこともなく、側に来る夕鈴の様子に、
「欲しいのは君」と言うのも、止めた。
ただ側に来たその瞬間に、夕鈴の手をとる。
「!!陛下!?」
驚く夕鈴に向かって黎翔は笑みを返す。
「しばらく、このままで」
柔らかな手を、そっと包み込む。
逃げないように力を入れて、しかしそれでいて壊さないよう細心の注意を払って。
「遠い地で過ごし、君が足りない。充電させてくれ」
逃げたいけど、逃げられない、どうしよう、とそんな困惑しきった表情の彼女に、そう告げると、夕鈴は困惑した顔を真っ赤にさせた。




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