[携帯モード] [URL送信]

小説
惹かれているのは自分だけじゃない(恋だの愛だの)

俺は知っているんだ。
自分が良いと思ったものは、他人も良いと思うものだって。
だから、不安なんだ。
他の男が苗床に視線をやるのも、苗床の視線を俺じゃない男が受けるのも。
だから、嫌なんだ。
俺以外としゃべるのだって、本当は。

情報を駆使し、思いつきで行動し、興味があることにだけ情熱を注ぎ、そして1人で突っ走る。
それだって、本当は止めて欲しい。

この俺が、そこまで苗床を想っていることを、彼女が知らない、いや、気付かないことだって、正直腹立たしい。

だから、俺はいつも苗床の隣、一番近くの場所をキープするんだ。
嫌なことを、そのままにしておく気なんて、さらさらないのだ。


**
1年G組に、生徒会長である矢吹 葉が姿を見せるようになったのは、ここ最近のことだった。一切他には目を向けず、ただかのこに向かっていく。
そして、かのこの前の席の初流の超絶不機嫌そうな様子に臆することなく、その手に持ったファイルをどさりとかのこの机の上に置く。
「・・・これ、なんです?」
座ったままのかのこは、立っている葉を見上げ、眉をひそめる。
「何って、君がよろこびそうなもの・・・かな」
「?」
首を傾げるかのこに、葉はくつりと笑う。
そして、身をかがめて、耳うちする。
「今年度の部の予算申請書とかその他いろいろ。良かったら・・・」
「何してんだよ!!」
初流が身を乗り出して、葉の肩を引く。
葉は、初流の剣幕を気にもせず、ただめんどくさそうに初流を見た。
そんな2人の様子を見て、かのこは、初流をにらみつける。
「椿君、邪魔しないで」
「な?!」
かのこの言葉を受け、茫然自失の様子の初流を、葉はくすりと笑う。
「苗床さん、ファイルは、しばらく預けるよ」



***
なんだろう。本当になんなんだろう。
情報処理能力が高い彼女を、手に入れたい。
そう思っていただけだったはずが。

組織のためじゃなく、個人的に側にいて欲しいと思うようになった。

ひねた性格のようで、どこか一直線なところとか。
小さな体なのにどこかパワフルなところとか。
自分に向けられた好意には、とことん気付かない鈍感なところとか。

そんなところが、けっこう気に入ってしまっている自分は、嫌いじゃない。

彼女の側を離れようとしない「彼」から、どうすれば彼女を奪えるだろう。
まずは、好奇心旺盛な彼女にぼくの持つ情報を利用させてやろう。
彼女から、ぼくに近づいてくれば、捕まえる労力はかなり減る。

さっき渡した情報は、不十分な上に、彼女の興味を引くだろう項目をわざといれてある。

もうすぐ、彼女は生徒会室に現れるだろう。ぼくの意図など知らずに。

ほら。ノックの音がする。


[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!