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小説
月夜
月の美しい夏の夜。
いつものように、黎翔は夕鈴の私室で、お茶を飲んでいた。
張老師との会話や、今日の掃除の成果、庭に咲いた花や、今日見た綺麗な羽の鳥など、夕鈴は、表情豊かにいろいろと話す。
その様子を、黎翔は眼を細めて眺めていた。
夜風によって、灯りの炎がゆらゆらと揺れ、部屋に明暗を付ける。

「それで、本当に驚いたのは――」
そこまで言って、夕鈴は顔を強張らせた。眼を見開いている。
「・・・どうした?」
いつにない夕鈴の様子に、黎翔は、夕鈴に手を伸ばそうと、椅子から腰を浮かばせた。
しかし、その手が夕鈴に触れるよりも速く、夕鈴は黎翔に抱きついた。
「!!夕鈴!?」
背中に腕を回しきつく抱きしめてくる夕鈴を、驚きながらもそっと抱きしめる。
少し震えているような気がする。
そっと顎に手を添え、上を向かせた。
「どうした?何を怯えている?」
潤んだ瞳で見上げてくる夕鈴に、黎翔はくらりとした。
頬をそっと撫でても、珍しく逃げずに、黎翔の腕の中に納まっている。
「陛下。お願いがあります」
「何だ?君のお願いなら、すべて叶えるが」


「・・・扉に、大きな蛾が止まっているのを、どうにか外に出してくれませんか?」


脱力感が、黎翔を襲う。
「・・・そんなことだろうと思ったよ」
と思いつつも言葉には出さず、承諾の意を伝える。
すると、ほっとした表情をしたかと思うと、瞬時に顔を真っ赤にさせた。
黎翔の腕の中にいる状況に気付いたようだった。おずおずと、腕の中から逃れようとする夕鈴の手を取り、その甲に口付ける。

「待ってて。すぐ蛾を外に出すから」
黎翔は、顔を真っ赤にさせて絶句する夕鈴に、にこりと微笑んでみせた


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あきゅろす。
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