[携帯モード] [URL送信]

小説
王の倒れた国の民
ザーっと、水を分ける音がする。今、ぼくはとても大きな船の中にいる。
船は大きくても、人の入れる部屋はとても小さい。
隣では、母が小さく、ずっと震えていた。ぼくはなだめるように、始終母に抱きついていた。
その狭い部屋には、何十もの人がいて、時々息苦しくなる。子供のぼくでさえそうなのだから、大人はもっと感じているのだろう。
それでも、この国から出れた安心感に、大人は満たされているようだ、誰も、この息苦しさに文句も言わない。
いえないのかもしれない。
それくらい、隣国は偉大なのだ。
この大きな船を用意したのは、隣国巧。
300年を超える大国。自分たちの生まれた国を捨てたぼくたちを迎え入れてくれる。

慶は混沌の中にいた。
立派な王だったのよ、と母は嘆く。じゃあどうしてたおれるの、と聞くと、母は知らないわと泣く。
昔は良かった、大人たちは皆そう言う。じゃあどうして今はこんななの、そう尋ねると、皆黙った。
この地が延国に近くなければ、子を失うこともなく逃げれたのに、そう憤る老婆に、どうして雁国へにげないの、と聞けば、あんな国に逃げるくらいなら、慶にいた方がましだ、と言われた。

港に巧国の船が着く、そう聞いたのは、父が妖魔に殺されて2週間ほどたった頃だった。
母はぼくだけに旅支度をさせた。
この2週間、小さな妹が泣く度に、母はやせた体で妹をあやしていた。
それでも泣く妹を、母はなにか恐ろしいものを見るように見ることもあった。
殴ることはなかった。その労力さえも惜しんでいるように、見えた。
隣に住む老婆に、泣きもせず妹を託す母を見て、ぼくは、この国を、王を、憎んだ。


[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!