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小説
狼陛下の側近の思うところ
珀 黎翔が、武断の王であるというのは、誰もが認めるところだ。
今は、内乱や陰謀も多く、武断政治が望ましいことは、文官であるところの李順も分かっている。
ただこの先、国政が落ち着き、文治政治となったときを想像すると、どうしても不安が李順を襲うことがある。
狼陛下が、戦を好むと言うわけでもない。
ただ、戦うことは、嫌いではなく、政務を行うことは、嫌いではないが、飽きやすいというだけのことだ。
文治政治には、その飽きが大敵であることを、李順は知っている。飽きたとき、陛下が戦を望めば、国は滅びの一途を辿るだろう。


陛下が、汀 夕鈴を気に入っていることは、李順も知っている。気品も身分もない彼女のどこを気に入ったのかは、正直不明だが、手放したくないと望むくらいの気に入りようである。
王の望みを叶えることは、側近の義務である。
だが、夕鈴の上司という立場を貰っている以上は、彼女を陰謀渦巻く王宮から逃すという義務も、己に課せられているのだと思う。

だが、彼女が王宮にいようがいまいが、ただその存在がこの国にあれば、陛下は、国を滅ぼそうなど、思わないのではないだろうか。
最近そう思う。

李順にとって大切なことは、国の末永い繁栄。
それだけだ。
王の望みに沿わないとしても、彼女を王宮に留めることになったとしても、本当に重要なことは、それだけなのだ。


そこまで考えをめぐらせれば、案外吹っ切れるもので、李順はもうあまり陛下と彼女の関係に深く突っ込まなくなった。
2人の関係がどう転ぼうが、自分のすることは、国を繁栄させること。

ただ、だからといって、彼女の行動に、眼を光らせないというわけではない。給料が発生するという時点で、仮とはいえ后としての行動に五月蝿くは言うことは、仕方のないことだと思う。


李順は、息を思い切り吸い込む。
「夕鈴殿!!」
何度目になるか数えるのも頭痛がしそうになりながらも、彼女が壊した陶磁器を両手に持ってすごめば、陛下はにこにこと笑みを浮かべ、逆に夕鈴は顔を白くさせ後ずさったのだった。


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あきゅろす。
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