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小説
腕の中
私は、自分がどれほど欲深いが知っている。自分の望みを叶える術も、その術を行使する権利と身分を、自分が持っていることも、知っている。
だが、彼女に関して言えば、その欲深さを出さないよう、細心の注意を払っている自分がいる。

「陛下は、もっと望んでもいいと思います」
それなのに、彼女は、私を見つめてそう言うから、思わず抱きしめた。


演技とはいえ、狼陛下として皆に恐れられる日々に、嫌気はささないだろうか。
自分の弱い部分を見せられず、一日中気を張って生活するのは、疲れないだろうか。
彼は、もっと自分に甘くてもいいのではないだろうか。
そう思っての発言が、なぜか、陛下に抱きしめられるという結果になり、私は陛下の腕の中で硬直した。


自分の腕の中で困惑しきっている彼女に、苦笑して、惜しくはあったが、腕の中から解放する。すると、いつものごとく、すばやく逃げ去っていった。


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