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小説
後宮に、一輪の花を咲かせ続けよう作戦!
老師はいらいらと夕鈴を見る。
「なぜ、さっさと陛下を誘惑せん」
そんな老師の様子に、夕鈴は雑巾を洗いながらげんなりした顔を見せる。
「・・・私には、無理ですよ」
「そんなことはないじゃろ。お前さんは仮とはいえ、陛下の唯一の后。チャンスはいくらでも作れるはずじゃ」
座っている夕鈴の顔を覗きこむようにして、張老師は言う。
「無理ですってば。私、色気がないってずっと言われ続けてたんですから!!」
「なんじゃなんじゃ、そんなもの、お前さん次第でどうにでもなるわ。
期待して待っておるよ」
「待たなくていいです!!」
夕鈴がそう叫ぶのと、張老師がほっほっほっと、独特な笑い声を挙げるのは同時だった。

*******
黎翔が執務室で仕事をしていると、張老師が楽しげに入ってきた。
「陛下、ちょっとよろしいかの?」
黎翔は、眉を上げ、後宮の管理人を見る。
「なんのようだ?張老師」
「ちょっとあの娘のことで」
「・・・夕鈴のことか?」
黎翔は、張老師を射すくめる視線を投げかける。
「彼女に何かあったか?」
張老師は、その視線を受け、一瞬びくりと身をすくめた。だが、すぐに気を取り直した様子で、狼陛下を見上げた。
「そうすごまないでくだされ。あの娘と今日しゃべっておったのじゃが・・・」

しゃべるだけしゃべって満足した様子の張老師が退室後も、黎翔は、仕事に手をつけず、思案顔で窓の外を眺めていた。

*******
珍しく思い悩んだ顔をした黎翔に、夕鈴はお茶を差し出しながら首をかしげた。
「どうされたのですか?陛下」
「どうしたら、夕鈴の勘違いを直せるかと思って考えてた」
「勘違い、ですか?」
黎翔の言葉に、夕鈴は眉をひそめる。
「うん」
そしてそっと夕鈴の手をとる。
「???陛下?!」
うろたえる彼女に構わず、黎翔は夕鈴の白い手に指を絡める。
お茶を入れる、その仕草。
さらりと長い髪を耳にかける様子。
自分とは違う柔らかな指が動くだけでも、十分、女性を感じさせる。
黎翔はそう思ったが、口には出さず、握られた手から逃れようとする夕鈴の必死の抵抗を無視して、更にその手を強く握った。
「夕鈴の手って、僕好きだな」
「!!――そうですか?」
黎翔のその言葉に驚いて、眼を見開く夕鈴に、黎翔はにっこりと笑う。
「うん!だからお茶を入れてくれるときとか」
握った手を、己の方へと近づけ、黎翔は夕鈴を見つめる。
「大切に扱うその仕草に、茶器にさえ、嫉妬しそうだ」
そして、そっと夕鈴の手の甲に口付けた。

顔を真っ赤にさせて口をぱくぱくと開けたり閉じたりする彼女の様子に、少しやりすぎたかと、黎翔が惜しむように手を離す。すると、夕鈴は
「高価な茶器を割らないよう、必死なんです!!!」
と言い捨てて、さっと茶器を持っていってしまった

「・・・夕鈴。僕まだお茶飲んでないよ・・・」
黎翔は、可愛すぎる夕鈴の様子に笑みをこぼす。
そして、これからしばらくお茶を飲むのも難儀しそうだと、気付いて、「あ〜あ」と呟き長椅子に深くもたれかかった。


*******
翌日、後宮の立ち入り禁止区域に来たとたん、陛下に何を言ったんですか!?と怒りだす夕鈴に、張老師はにやにやと笑う。
逆に、何されたんじゃと質問すると、夕鈴は真っ赤になってはたきを握り締めた。そして、質問には答えず、一心不乱に埃を落としていく。


決定打とまではいかなかったようじゃが、何かはあったようじゃな。

張老師の(老師にとっては楽しい、夕鈴にとっては心臓に悪い)策略は続く。


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あきゅろす。
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