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小説
髪に触れれば
后のまっすぐで柔らかな髪に、陛下が指を絡め、口付けを落とした。
后は、頬を染め、照れたように微笑み、陛下を見る。
陛下は、その笑みに、后にしか見せない笑みを返した。

その側を、女官たちはにこにこ笑みを浮かべて、官吏たちは戸惑いを隠して、控えている。

「狼陛下は、ただ一人の后に夢中」

この光景を見た、女官たちは楽しそうに、一方官吏たちは溜息をついて、そう噂をした。



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夜。人払いを済ませた後宮の夕鈴の私室で、夕鈴は黎翔の前に仁王立ちした。
「陛下!恥ずかしいので、急にああいうことするの、止めてください!」
「ええ〜!」
「ええ〜じゃありません!仕事なので、多少のことは恥ずかしくても我慢します。でも、あれは、本当に心臓が止まるかと思いました!」
夕鈴が顔を真っ赤にして怒るのを、黎翔は残念そうに眺めた。
「・・・だが、私は君の髪を触ることが好きなんだが」
夕鈴の下ろした髪を一房手に取る。
「君の心臓が止まるのは困るから、自嘲するよ」
そういって惜しそうに手を離すと、更に顔を赤くした夕鈴は衝立の向こうへ一瞬で姿を消した。

「可愛いなあ。相変わらず夕鈴は」
衝立の向こうに視線をやりながら、愛おしそうに眺めている彼を、動悸を抑えることに懸命な彼女は、まだ知らない。


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あきゅろす。
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