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小説
花の行方
女官に髪に挿してある生花の位置を整えてもらいながら、夕鈴は小さく嘆息した。
あの夜から、時折生花を髪に挿している。そうすると、陛下の機嫌がいいのだ。
ついでに甘い言葉をかけてくるのは問題だが。
その言葉を思い出すだけで、顔が厚くなるのを、夕鈴は感じた。

「最近、お后様は生花を髪に挿すことがお気に入りなんですね」
女官がにこにこと笑って言うので、夕鈴はええと曖昧に微笑んだ。そこで、ふと思い浮かぶ。
「そういえば、毎回、髪に挿しておいた花がいつのまにか消えているの。夜、次の日も挿せるように花器に入れておくのだけど。
今度から、次の日も使うから捨てないでね」
貧乏性まるだしかしらと思いながら、言うと、女官たちはきょとんとした顔で互いに顔を見合わせた。
「畏れながら、お后様。私たちはだれも花を捨てておりませんわ」
「そうなの?」
夕鈴もきょとんとした顔で、女官たちを見る。
「じゃあ、誰が・・・」

「私が貰っている」
突然陛下の声が聞こえ、夕鈴を初め女官はびくりと体を震わせた。
「陛下、驚きました。今日はお早いのですね」
夕鈴が小さく礼を取りそう言うと、ああと陛下は微笑んで、夕鈴の元へと近づく。
そしてその手に夕鈴の髪を絡ませた。
「毎日、惜しんで朝を迎え、雑務に追われているのだ。
愛らしい后の髪を彩る花を、夜の名残として私が欲しがっても、不思議はなかろう?」

叫びだしたい。動悸がする。
夕鈴はその手を跳ね除けたい衝動を寸前で止めた。女官たちがにこにこと、夕鈴たちを見守っている。
「・・・陛下。そのようなことをみなの前で・・・」
顔を真っ赤にしたままそれだけ言うと、陛下はさっと手を挙げた。女官たちは、そっと微笑みを浮かべたまま退出していく。

そして、退出しきって、二人だけになってから、夕鈴はさっと陛下から離れた。
「――からかうのも、いい加減にしてください!!」
「えー。からかってなんかないよ、本心だよ!」
狼陛下の演技から突如、素に戻り、陛下は口を尖らせた。
「それがからかっているって言うんです!」
夕鈴は真っ赤になった顔を見せたくなくて、くるりと後ろを向いた。

単なる思い付きだったのに。

顔を真っ赤にさせて、夕鈴はあの時の自分を心の中で罵倒した。


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