小説
紅白
くはあ。と、暢気な音を出して、陽子はあくびをした。景麒は、それを見咎め、眉を寄せた。
「主上・・・」
「ああ。すまない。昨夜も、寝たのが遅かったんだ」
朝議へ向かうために二人は、回廊を進む。そう言われては、景麒もしかることが出来ない。小さく息をつく。
「ご無理なさいませぬよう」
「うん。大丈夫だ」
心配するな、と言いながら、前を歩く陽子はひらひらと手を振る。しかしふと思い立ったかのように、その歩を、止めた。
「あ。やっぱり駄目かも」
「は?」
「無理しなきゃ、駄目かも」
後ろの景麒を振り返り、にかり、と輝かしいほどの笑みを向けた。陽子は言う。
「朝議の間、あくびをかみ殺さなければならない。無理してでもそうしないと、浩瀚が怖い」
景麒が呆けた顔で己を見ていることに気付き、陽子は、今度は声に出して笑った。
簡単にくくった髪を揺らし、陽子は再び前を向き歩き始めた。小さな真珠の簪が、朱色の髪と一緒に揺れるのを、景麒は後ろで眺めた。
[次へ#]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!