ONLY GLORY
35球目:これで良いのなら。私は構わない
快音残し高々と舞い上がる白球。
その白球は無情にもライトスタンドへと突き刺さってしまった。
逆転の満塁ホームラン。
これには悠岳館ベンチは大はしゃぎ。
また打った樋口も右腕を高く突き上げながらダイヤモンドを回る。
「マジかよ・・・」
ホームで呆然としながらつぶやく浦原。
また守備に着いている選手たちもこの一瞬の出来事にただ呆然としているだけであった。
ベンチでは京壹監督がベンチに座りながら頭を抱えたまま何も言わずにグラウンドを見つめる。
またマウンドの秀二も白球弾むライトスタンドを見つめていた。
そしてその後試合は続けられ秀二はそのあとさらに3点を入れられ7−2とし九回の裏へと入った。
ベンチで俯きながら座る秀二。
その隣では浦原が何かを考えながらグラウンドを見つめる。
他の選手たちは必死になって声を張り上げ応援をする。
しかし、九回のマウンドに上がった北山を打てるものは…
ギィィン…
「クソォ〜!!」
いなかった。
「アウト!!ゲームセット!!」
7−2。
九回の逆転で陵應学園は3回戦で夏の大会を去るのであった。
整列をする両校。
すると樋口が俯く秀二に言う。
「これで分かったろ。お前らの夢がどんなに叶わないかってことが。」
そう吐き捨て去る樋口。
そのあとを追うように神藤や千石が着いていく。
すると丹羽が立ち止まると秀二に言った。
「悪いね樋口は口悪いからさ…。でもよ、中学ん時のお前の方が…今より断然よかったぜ?」
その丹羽の言葉に顔を上げる秀二。
すると丹羽はニカッと笑いながら言った。
「あんときのお前になれよな?俺もアイツもマジの秀二と戦いてぇんだからよ。北山も投げ合うのを望んでるぜ?まぁ頑張れや」
そう言い手をヒラヒラを振りながら去る丹羽。
その彼の背中をジッと見つける秀二であった。
試合が終わり球場の外へと出た陵應の選手たちは京壹監督を囲みミーティング。
悔しそうな表情を見せながら座る選手たちの顔を見て京壹監督は話しだした。
「今日の試合で。俺を含めて互いに沢山の課題が出たな。悔しいだろ?負けるのは」
そう言いながら選手一人一人の顔を見る京壹監督。
その選手の中には悔しさから涙を浮かべる者もおり京壹監督は何度も頷きながら見渡す。
「その悔しさを大事にしろ。そして、それを今後に活かすんだ。お前らはまだ始まったばかりなんだからな。」
その言葉に涙をこぼす選手たち。
そして京壹監督は3年である早川と桑野を見て話す。
「悪かったな。こんな終わり方で。」
「いえ。僕らはこれで満足です。悔いはありませんよ」
ニコッとほほ笑みながら言う早川に桑野。
そして最後に京壹監督は秀二を見ると話しかけた。
「村神。お前は良い経験ができたな。」
「…はい」
かすれた声で京壹監督の質問に答える秀二。
京壹監督は秀二を見ながら再び話し出す。
「お前にとっても課題の残る試合だったな。でもよくスタミナのない状態で9回を投げてくれた。よく我慢強く投げてくれた。そのガッツは…絶対に捨てるなよ村神。」
「…はい!!」
キュッと下くちびるを噛みながら強く返事をする秀二。
彼は負けたことの悔しさ、そして自分のふがいなさを改めて痛感したのであった。
こうしてミーティングが終わり選手たちは制服へと着替えて帰路へと着く。
そんな中、帰路が同じである秀二とひかりはトボトボと道路を歩いているとふとヒカリが話した。
「負けたのね…」
「うん。そうだね」
ぽつりと言うヒカリに答える秀二。
するとヒカリはさらに話す。
「みんな泣いてた…」
「うん…」
「でもあなたは泣いてなかった…泣いても構わないと私は思う」
そう言うヒカリに秀二は立ち止まるとツーっと一筋の涙を頬につたわせた。
「ホントは…泣きたかったよ…でも…」
そう言いながらポロポロと涙を流しだす秀二にヒカリはハンカチを手渡しながら言う。
「私は…こんな時、どうしたらいい…?」
その質問に秀二は少し首をかしげるもハンカチで涙を拭きながら言った。
「笑ってくれたら…うれしいかな」
そう秀二が言った次の瞬間、ヒカリはニコッと柔らかくほほ笑んだ。
ヒカリに出会って初めて見る彼女の笑顔。
すると秀二は思わずヒカリを抱きしめていた。
「…抱きしめればいいの?」
「あ、いやつい…ゴメン!」
ヒカリの冷静な言葉にアタフタしながら離れようとする秀二。
すると秀二の背中にそっとヒカリは手を回していた。
「これで良いのなら。私は構わない」
そう良いキュッと少し強めに抱きしめるヒカリ。
秀二はこの突然の出来事に、ただそのままでいるのみであった。
こうして、秀二たちの初めての夏はほろ苦く終わりを告げるのであった。
ONE Season…完。
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