ONLY GLORY
34球目:これで…
九回表無死満塁。
その状況の中マウンドに立つのは陵應学園の村神秀二。
そして攻撃である悠岳館の打席には3番の樋口。
マウンド上の秀二は苦しそうに肩で息をしており交代をするべきなのであるが、今の陵應にはピッチャーがいない。
秀二に任せるしかないのである。
「決めてやるよ。これでな」
そう言いながら打席に入るのは樋口。
それを聞いていた浦原はタイムを取りマウンドへと向かう。
「おいシュウ。」
そう言いながらマウンドへと上がる浦原。
すると秀二は右手を浦原に向けて向かうのを止めさせると浦原の目を見ながら言う。
「大丈夫…やらせてくれ」
「シュウ…」
明らかに見てスタミナがゼロ。
肩も激しく上下しながら息をしており誰もが無理だということは分かっていた。
しかし、秀二の眼はまだ死んではいなかった。
そして次第に浦原は、その眼を信じてみたくなった。
「よし…。三振獲んぞ」
ミットでポンと秀二の胸を叩き言い聞かせる浦原に秀二はニコッとほほ笑む。
マスクをつけながらホームへと戻る浦原は座りサインを出した。
(勝負か…まぁ当たり前だな)
サインを出す浦原を見てそう思う樋口。
おの樋口に対しての一球目…
ズパァン…
「な…」
その投げ込まれた速球に思わず声が出る樋口。
これがスタミナゼロのピッチャーの放る球か…?という表情をする樋口。
そして二球目もストレートを投げ樋口はこれも見送りストライク。
(また速くなった…コイツ)
秀二の投げ込むストレートにニヤリと笑う樋口。
その3球目は…
ギィィン…
「ファール!!」
3球目はバックネットに当たるファールボール。
その後もしぶとく秀二の球をファールにしていきなんと10球も粘りを見せる樋口ではあるが、その分秀二のストレートもスピードが増していく。
(ドンドン速くなってくる…コイツどうなってやがる)
一球ごとにスピードが増していく秀二のストレート。
これをカットしていく樋口ではあるが内心は憤りに満ちていた。
(この速球を持ってて…なぜそんな所にいる秀二。お前は…そんなところで絶対に叶わぬ夢を追いかける奴なのか。)
そしてふと樋口は秀二を見る。
すると彼の眼に飛び込んできたのは全く死んではいない眼であった。
負けんと言わんばかりの強い視線に背筋が凍る樋口。
そして秀二はゆっくりとセットポジションから投球モーションへとはいってきた。
(秀二…お前は…)
投球する秀二を見ながら心の中で問いかける樋口。
そして秀二の腕から11球目のボールが放たれた。
(お前は…)
樋口に向かって飛んでくるボール。
その樋口はバットを大きく引きボール目掛けてバットを振りに行く。
(お前は…!!)
カキィィィン…
「お前は…これで…終わりだ」
振りぬいたバットをカランと地面へ落とす樋口の口から出たその言葉。
秀二はライトを振りむき空を見上げる。
高々と青空に舞い上がる白球。
その白球は…無情にもライトスタンドのフェンスを越えていくのであった。
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