ONLY GLORY 32球目:俺が甘かった 北山彰弘。 彼の登場により一気に雰囲気が変わった。 地面すれすれから投げ込まれるアンダースロー。 その経験のしたことのない球筋に陵應学園の打者は翻弄された。 ギィィン… 「あぁ…」 七番打者がアウトに打ち取られてチェンジ。 北山は選手たちとグラブタッチをしながらベンチへ戻る。 「彼は北山彰弘。千葉出身のピッチャーですね。中学時代は他のピッチャーの陰に隠れてしまっていたために目にも止まらなかったのですね。しかしまさかアンダーとは…」 そう説明する叢。 すると秀二はグラブを手に持ちながら言う。 「でも。今は勝ってる。このまま抑えればいい」 そう言いベンチから出る秀二に他の選手たちも同じ気持ちは変わらない。 しかし京壹監督はどこか不安そうな表情を浮かべていた。 「村神…無理はするなよ。決して北山に挑発させられるな」 そう言いベンチに座る京壹監督。 また相手側のベンチでは樋口が北山に話した。 「ナイスピッチだ北山。」 「ありがと♪」 ベンチに座りながら話す2人。 すると北山がマウンドに上がる秀二を見ながら話す。 「彼。やっぱ凄いね」 「あぁ。アイツはすごい…だがな。お前はアイツに勝てる力がある」 「そんなまさか」 樋口の言葉に謙遜する北山。 そんな北山に樋口は首を振りながら言う。 「ある。アイツらは夢だけを見てる奴だ。そんな奴らに、この厳しい練習を耐えてベンチメンバーを勝ち取った俺らに負けることはない」 「そう…だな。俺も今まで陰に隠れてきた時とは…違うからな」 そう上を見上げながら言う北山にコクリと頷く樋口であった。 その頃グラウンドでは秀二がフルピッチングで打者から三振の山を築いていた。 「ストライク!!バッターアウト!!チェンジ!!」 最後の8番打者を三振に打ち取りチェンジとなり攻防は8回へと入る。 しかしここで秀二に異変が出てきた。 「はぁ…はぁ…」 肩で息を切らしながら飲み物を飲みほす秀二。 彼に浦原が気遣う。 「おい。大丈夫か?」 「あぁ…大丈夫」 そう言う秀二。 しかし見るからに辛そうな表情を浮かべる秀二に他の選手も心配に思う一方で不安が出てくる。 (この試合…大丈夫か?) そう感じる不安。 その不安はこの八回の表の北山のピッチングでより一層増してしまう。 ギィィン… 「クソが!!」 鈍い音とともに転がる打球に必死で走る達哉。 「おらぁ!!」 ヘッドスライディングを試みる達哉ではあるが判定はアウト。 これで八回の攻撃も無得点に終わってしまった。 その光景に京壹監督はポツリと呟く。 「明らかに経験差。これが練習試合のできない弱小校と練習試合が出来て整っているところとの違いだ。そして、村神の先発はまだ早いんだ。確かにアイツは素晴らしいセンスの持ち主だ。だがそんな彼でも高校野球をやるには体が出来てない。アイツはスタミナがまだ足りなかったんだ…。クソ。俺が甘かった。」 そう呟く京壹監督。 しかし、秀二もそんな中よく保ったと言うべきか… 試合はついに最終回の九回へと入ったのであった。 次回へ続く。 [*前へ][次へ#] [戻る] |