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ONLY GLORY
26本目:激闘の末・・・
延長14回。
試合がついに動き、天零の正捕手鳴海が貴重な貴重な勝ち越しタイムリーを放ち3−2とした。
後続を打ち取った秀二はベンチへと戻ると肩を落とすことなく、先頭打者になる達哉に声をかける。



「達哉、出ろよ。まだこれからだぞ。」


と力強く話す秀二に一瞬あっけに取られるもすぐに頷く達哉。
そしてその会話を聞いていた他の選手たちも、自分達が肩を落とせるわけないじゃないかと言う思いに駆られベンチ最前列に並び身を乗り出しながら打席に向かう達哉に声をかける。


(チッ、気落ちするどころか上げてきた…エースを打てば意気消沈するかと思ったが、流石ここまで来るチームと言うことか)


とマスクをかぶる鳴海。
その鳴海はマウンドへと向かう神威を見ると神威も気付いたのかニコッと笑みを返すと鳴海もフッと笑いマスクを取り大声で自チームに響き渡るように叫んだ。


「あと1回!!しまって行くぞ!!」

『おお!!』

鳴海の声に応え大きな声で返す選手たち。
達哉が打席に入り試合が再開された。

打席に入る達哉は今日無安打。
しかも今大会達哉はあまり打てては無く、それは達哉本人も分っていた。


(今日の俺は何もしてねぇ、こんなんで1番とは笑われちまうぜ。俺の武器それは・・・)


一球目を投じる神威。
投じられたボールはストレート、この球に達哉は動きを見せスッとバントの構えになった。


(俺の武器は…この足だ!)


コンとバットにボールを当てる達哉。
打球は勢いを殺しながら三塁線を転がっていき、桜井が意表を突かれた形となったのかスタートが遅れていた。
だが、この状況に素早い察知能力を働かせた神威が回り込むようにボールを捕ると素早いフィールディングで一塁へ投げる。

ヘッドスライディングで一塁に滑る込む達哉と一塁の捕球はほぼ同時、審判の判断にゆだねられ一塁手の南戸と達哉が見ると塁審の腕は大きく横に広がる。


「セーフ!セーフ!」

「っしゃあ!」

セーフの判定の瞬間雄たけびを挙げる達哉にスタンドから歓声が聞こえる。
無死一塁とし打席には巧打者の田中山。
その田中山は送りバントをきっちりと決め一死二塁とし打席には3番の片瀬。

「タイム」

タイムを取る鳴海。
鳴海と他の内野手がマウンドに集まると鳴海が開口一番に神威に話した。


「敬遠しようなんて言わないよな?」

その言葉は桜井を始め他の内野手陣は考えていた。
今日の片瀬と次の晋太郎は共に1安打ながらも片瀬の方が神威に対しタイミングが合っている。
ならばここは片瀬敬遠で次の晋太郎と勝負の方がスコア上では賢明である。

神威の言葉に注目する選手たち。
その神威の答えは1つだった。


「そうだね、勝負しよう」

この神威の一言で選手全員が腹をくくった。
声を出し散らばる選手たち。

打席に入るのは片瀬。


(敬遠やと思うたけど勝負。ほんなら初球からいったるわ)


と意気込みながら打席へと入りバットを構える片瀬。
その神威の初球に投じられたのはアウトコースギリギリのストレートに上手く合わせた片瀬。
カキンと弾き返された打球は一二塁間への痛烈なゴロとなり横っ跳びをする隼人のグラブの先を抜けていった。

一二塁間を抜けた瞬間ワッと湧き上がる球場。
二塁ランナーの達哉はもはや迷いなく三塁を蹴りホームへと激走。
バックホームを叫ぶ鳴海にライトの草薙はダイレクトのバックホームをすると送球は矢のように真っすぐと鳴海のミットへと飛び込んでいき達哉とクロスプレーとなった。

「アウト!!」


シンとなる球場に響き渡った審判のアウトのコール。
達哉はそのまま天を仰ぐように仰向けになり寝転がり、鳴海は右腕でガッツポーズをし好返球を見せたライトの草薙にその右腕を突きあげた。

同点のチャンスがつぶされ二死一塁。
打席には晋太郎が立ちネクストには秀二が座り晋太郎に大きな声で激を飛ばす。


そして…




「ストライク!!バッターアウト!!ゲームセット!!」



最後は晋太郎がインコースの緩いカーブを空振り三振し試合終了。
その瞬間、キャッチャーの鳴海はマウンド上の神威の元へと走っていき抱き上げ他の選手も集まっていきまるで優勝したような盛り上がりを見せていた。

そして、その光景を見ながらネクストに立っていた秀二はゆっくりと立ちあがり整列へと向かうのであった。


秀二の隣で涙が止まらない達哉。
最後の打者になった晋太郎はただ黙った下を俯きながら整列をしていた。

整列を終えると両校に惜しみない拍手が飛び交い、両者の健闘をたたえた。
ベンチ裏では同点のホームを踏めなかった達哉が涙をボロボロと流しながら秀二に話しかけた。


「俺がもっと速ければ…すまんシュウ」

そう話す達哉に笑みを浮かべながら背中をさすってやる秀二。
また他の選手たちも各々の課題を頭の中に浮かべていたであろう。

そしてその彼らを見ていた京壹監督は選手たちを集めて話を始める。


「今日の試合。素晴らしかった。お前らは頑張った、この敗北をここからまた活かそう。そして…」




夏にまた戻ってこよう。
そう一言話すと選手たちは小さくも、とても力強く全員が頷いたのである。



陵應学園、選抜高校野球選手権大会ベスト4。
秀二の選抜はここで終えたのである。



次回、多分最終話。



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あきゅろす。
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