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ONLY GLORY
20本目:一瞬の・・・
秀二の打球を腕に当ててしまいベンチ裏へと戻る緋悠。
場内がざわつく中、ベンチから出てきたのは監督であった。



「ピッチャー交代。榊君」

とブルペンにいる榊を指さしながら交代を告げる未麗監督。
場内のコールがされるとさらにざわつきが大きくなりながらもマウンドへ二番手の榊が上がり投球練習を行う。

また天零ベンチでは医務室から包帯で大きくなった右手の緋悠が戻ってきた。

「大丈夫ですか?」

と心配そうに問いかける神威に対し緋悠は少し黙るも口を開く

「・・・右手首にヒビが入ってるみたいだ。この試合が終わったら病院へ行ってくる」

「そんな…」

と驚きの表情をしながら言葉を失う神威に緋悠はニッと笑みを浮かべると神威を見ながら話す。


「任せろと言いながらもこの様…後輩に対して申し訳ない」

「いえ、そんな時にこそ、榊君や僕が…緋悠さんを全力でサポートします。今までそうやって勝ってきたじゃないですか。ダメですよ、エースが弱音を言っては。村神さんも…たぶん同じ状況なら迷わず後続に託したと思います」


神威の言葉に緋悠は少し驚いた。
ここまで彼から言われたのもそうだが、まさか秀二の名が出るとは思ってなかった。
よくよく考えれば神威は秀二に憧れ、越そうと決意しこの高校野球の舞台へ飛び込んできたのと同時に、自分たちは甲子園で優勝をするためにここまで来たと再び思い出した。
そのためには、自分だけでは行けない、この神威・榊という頼りになる2人が後ろにいる。


その気持ちが今までの試合で落ち着いた気持ちで投げれてきていたという事に改めて気づくと緋悠の目からポロッと涙がこぼれ落ちそうになるもグッとこらえ神威を見ながら話す。


「あぁ、頼むぞ」


と緋悠の言葉にコクリと強く頷く神威。
そしてグラウンドではその頼りになる榊が6番の池本を三振、続く中野をサードライナーに打ち取りチェンジとしたのだ。


「よっし!!」


とガッツポーズをとりながらマウンドを降りる榊。
陵應ベンチではチャンスをモノに出来なかった選手たちが悔しそうにする。


「クソ、打ち気になりすぎたか…でも榊、防御率は3点台なのになんでこういう時に打てんのやろか」


とグラブを持ちながら苦言を呈するのは片瀬。
そんな片瀬に対し浦原がマスクを持ちながら話す。


「あの榊は先発時には防御率は4点台、でもな…リリーフで、しかもピンチで登板すると防御率はなんと1点取られない。言えば、リリーフエースってやつだ」

と話しながらグラウンドへと向かう浦原ら陵應の選手たちは同点に追いついたことで多少は気持ちが楽になっていた。
しかし、一人だけが気持ちが重い選手がいた。

「ん?おいシュウどうした?」


といち早く気付いた浦原の声をかけた選手は秀二。
マウンドで呆ける秀二を見て浦原はピンときた。



「シュウ、当てたことに気負いしてるんじゃねぇか?」

と鋭い指摘に秀二は少し間を開けるも笑みを浮かべながら頷くも、彼自身の心の中では打球を当ててしまった緋悠の事を考えていたのだ。

彼自身投手には不向きと言えなくもないほどの優しい男である。
特に自分の打った打球とあっては気にならないわけがない。

そんな状態で上がった8回のマウンド。
打席には光明が入り大きくバットを構える。


試合が始まりサインを確認する秀二。
小さく頷き秀二がワインドアップで一球目を投じた瞬間に彼の脳裏に打球を当てられた緋悠の映像がよぎった。


「あ!!」

投じられたボールの感覚に思わず声を出す秀二。
ボールは高めへと浮いており、光明はそんなボールを見逃すわけがなかった。



(失投!これを…打つ!!)


高めへの棒球をフルスイングする光明。
カキィィンと乾いた打球音が鳴り響くと打球はピンポン玉のようにセンターへと高々と舞い上がっていき、甲子園のバックスクリーン手前まで運んで行った。




「う、うおっしゃあああああああ!!」


右腕を高々と挙げながら走る光明にマウンドで茫然とセンターを眺める秀二。
一瞬の心の乱れからの棒球を投じてしまった秀二と、それを見逃さず見事に打ち返した光明。


8回で2−1のリードを許した陵應。
万事休すか…。



次回へ続く。


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あきゅろす。
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