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I'll always be with you.
2



 後ろから声がした。女の人の声が。誰だかすぐわかった。おれのことをこうやって呼ぶ人は、あの人しかいない。




 男の手の動きが止まる。よかった、助かった。




「な、な、な、なか、じま、さん…………」




 男がおれから手を離す。体も離す。まるで何もしてなかったかのように振る舞う。声が震えてる。足も震えてる。慌ててる。なんだこいつ。




「あ、あの、これは、ち、ちがくて、ですね…………」




 おれの名前を呼んだ女の人────中島由佳さんがこっちに歩いてくる。笑顔で。怖いほど綺麗な笑顔で。男が数歩後ずさりした。




 ゆかさんが男の前でぴたりと立ち止まった。そして、自分より何十センチも高い男の胸ぐらを掴んで────




 パンッ!!!




 綺麗な音がした。なんて綺麗な音なんだ。男が咳き込んで勢いよく床に倒れる。左頬を抑えて。




 ゆかさんがビンタした。いや、あれはビンタじゃない。ビンタだけど、ビンタじゃない。殴るに近い。あんな綺麗な音普通は出ない。絶対痛い。絶対痛い。おれが殴るより絶対痛い。




「げほっ! す、すみ、ま」

「私に謝んないで、今まで手出した人たちに謝ってくださいよ。自首してください。自首。こっちから警察は呼べないんで。あと一生この業界に顔見せないでください」




 ゆかさんが吐き捨てるように言った。







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「取り押さえなくてよかったんですか」




 長イスにまた座る。若干乱れてる服を整えて。あー風呂。風呂入りたい。




 男は走って逃げていった。ゆかさんは追いかけたりしないで、そのまま逃がした。




「んー……そーねー、取り押えてもよかったんだけど、反省してほしいっていうか、自分が悪いことしてたんだってことを、ちゃんと自分で気づいてほしいから。まぁもうすることはないと思うよ。見られたの初めてっぽかったし、このあたしに見られてビンタされたんだからね。はっはっはー。

 ……ってあれーカフェオレないんですけどー」




 長イスの横にある自動販売機の前に立って、ゆかさんが言う。ボタンを連打してる。




「最近ねー男のスタッフがマッサージするって装って、女性スタッフの体を触るってことあったの。体を触る以上のことはしないんだけど、被害にあったスタッフさん、怖くなって体調崩したりしちゃってさ。ほんの一部の人しか知らなくって、見つけたらとっ捕まえてやろうって話ししてたの。それが、まさかいつの間に男に走るなんてね…………っと」




 そうだったんだ。ゆかさんがさっき言ってた、今まで手出した人たち、ってそういうことか。前から痴漢まがいなことしてたのか。どうしようもないスタッフだ……。あれはビンタされてよかったのかもしれない。ほんの出来心でしてたなら、あのビンタで改心してほしい。悪いことしてたって気づいてほしい……




「ほれ」

「え……」




 ふと目の前に、おれの大好きなココアの缶が差し出された。顔を上げる。




「大丈夫……? ほんと、災難だったね」




 ゆかさんが心配そうな顔でおれの顔を覗き込んでた。綺麗な目と、目が合う。ふわっといい匂いが香った。少しだけドキっとして、急いで目を逸らした。




「大丈夫です……すみません。助けてくれて、ありがとうございました」




 缶を受け取って、笑顔で答える。ゆかさんはホッとしたような顔をして、おれの隣に拳2つ分くらい開けたところに座った。片手でプルタブを開けて飲む。あ、結局コーンポタージュにしてる。おれも、受け取った缶を開けて飲んだ。おいしい。ほっとする。あー、女の人に奢らせてしまった。



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あきゅろす。
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